[行列解析4.3.P16]行列の spread の評価

4.エルミート行列、対称行列、合同行列

4.3.P16 

4.3.問題16

(a) \( A \in M_2 \) が正規行列ならば、\(\mathrm{spread}(A) \geq 2|a_{12}|\) を示し、この評価が鋭い(達成される)例を与えよ。なぜ \(\mathrm{spread}(A) \geq 2|a_{21}|\) も成り立つのかも説明せよ。

\(\mathrm{spread}(A) \) とは、行列\(A\)のすべての固有値の中で、複素平面上での最大の距離(差の絶対値)の事です。
\(\mathrm{spread}(A) =\max_{i,j}\{|λ_i-λ_j| :λ_i,λ_jはAの固有値\}\)

(b) \( A \in M_n \) がエルミート行列で、\(\hat{A}\) が \( A \) の主小行列であるとする。このとき \(\mathrm{spread}(A) \geq \mathrm{spread}(\hat{A})\) を示し、(a) を用いて \(\mathrm{spread}(A) \geq 2\max\{|a_{ij}| : i,j=1,\ldots ,n, i\neq j\}\) を導け。上界については (2.5.P61) を参照せよ。

ヒント

\( 2\times 2 \) 正規行列では、 正規性 \( AA^*=A^*A \) から \( |a_{12}|=|a_{21}| \) が従う。 また固有値差は判別式を用いて計算できる。 エルミート行列の主小行列については、固有値のはさみ込み定理を用いると spread が減少しないことが分かる。 その後、任意の非対角成分を含む \( 2\times 2 \) 主小行列に (a) を適用すればよい。

解答例

(a) を示す。

\( A\in M_2 \) を

A=
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}

と書く。 \( A \) は正規行列であるから、

AA^*=A^*A

が成り立つ。 両辺の \( (1,1) \) 成分を比較すると、

|a|^2+|b|^2
=
|a|^2+|c|^2

となるので、

|b|=|c|

を得る。

\( A \) の固有値を \( \lambda_1,\lambda_2 \) とする。 特性方程式より、

\lambda_{1,2}
=
\frac{a+d\pm \sqrt{(a-d)^2+4bc}}{2}

である。 したがって spread は

\mathrm{spread}(A)
=
|\lambda_1-\lambda_2|
=
\left|\sqrt{(a-d)^2+4bc}\right|

となる。 正規性より \( |bc|=|b|^2 \) であるから、

\begin{aligned}
\mathrm{spread}(A)^2
&=
|(a-d)^2+4bc|
\\
&\geq
4|bc|
\\
&=
4|b|^2
\end{aligned}

を得る。 よって

\mathrm{spread}(A)\geq 2|b|
=2|a_{12}|

が成り立つ。

この評価が鋭い例として、

A=
\begin{pmatrix}
0 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}

をとる。 このとき固有値は \( 1,-1 \) であるから、

\mathrm{spread}(A)=2

であり、

2|a_{12}|=2

となって等号が成り立つ。

また、 \( |a_{12}|=|a_{21}| \) であるから、

\mathrm{spread}(A)\geq 2|a_{21}|

も同様に従う。

次に (b) を示す。

\( A \) をエルミート行列とし、 \( \hat{A} \) をその主小行列とする。 \( A \) の固有値を

\lambda_1(A)\leq \cdots \leq \lambda_n(A)

とし、 \( \hat{A} \) の固有値を

\mu_1\leq \cdots \leq \mu_{n-1}

とする。 固有値のはさみ込み定理より、

\lambda_1(A)\leq \mu_1\leq \mu_{n-1}\leq \lambda_n(A)

が成り立つ。 したがって、

\begin{aligned}
\mathrm{spread}(\hat{A})
&=
\mu_{n-1}-\mu_1
\\
&\leq
\lambda_n(A)-\lambda_1(A)
\\
&=
\mathrm{spread}(A)
\end{aligned}

を得る。 よって

\mathrm{spread}(A)\geq \mathrm{spread}(\hat{A})

が成り立つ。

任意の \( i\neq j \) に対し、 \( i,j \) 行 \( i,j \) 列を取り出した \( 2\times 2 \) 主小行列を

A_{ij}
=
\begin{pmatrix}
a_{ii} & a_{ij}\\
a_{ji} & a_{jj}
\end{pmatrix}

とする。 \( A \) はエルミート行列なので、 \( A_{ij} \) もエルミートであり、したがって正規である。 (a) より、

\mathrm{spread}(A_{ij})
\geq
2|a_{ij}|

が成り立つ。 さらに主小行列についての結果より、

\mathrm{spread}(A)
\geq
\mathrm{spread}(A_{ij})
\geq
2|a_{ij}|

を得る。 これは任意の \( i\neq j \) について成り立つので、

\mathrm{spread}(A)
\geq
2\max\{|a_{ij}|:i\neq j\}

が従う。

[行列解析4.3]エルミート行列に関する固有値の不等式
この節の目次4.3.1 定理(ヴェイアの定理)4.3.3 系4.3.5 系4.3.7 系4.3.9 系4.3.12 系4.3.15 系4.3.17 定理(Cauchy)4.3.21 定理4.3.26 定理4.3.28 定理4.3.34 系4...


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