複素数でも使える拡張不等式

拡張不等式を使うと、複素数(より一般的に代数体)でも大小比較が可能になります。

記号の定義

通常の不等号

「<」「>」「≦」「≧」

これらは、実数同士の比較で使います。

拡張不等号

「\(<_θ\)」「\(>_θ\)」「\(≦_θ\)」「\(≧_θ\)」

これらは代数体(複素数)の元同士の比較で使用します。

ここでθは、0でない代数体の元で、比較するための向きを表します。

拡張不等式の定義

ポジティブ集合

拡張不等式の定義には、ポジティブ集合と呼ばれる集合が必要です。

ポジティブ集合とは、正の向き(大きい方向)を示す元の集合です。

複素数体(より一般的に代数体)\(F\)に対して、その部分集合であるポジティブ集合\(P\)とは下記の性質を満たすものです。

  • \(α,β \in P \implies α+β \in P\)
  • \(0 \not\in P\)
  • \(α \in P \implies -α \not\in P\)
  • \(1 \in P\)

逆の見方をすると、0より大きいとする元の集合がポジティブ集合です。

複素数体\(\mathbb{C}\)に対して代表的なポジティブ集合は下記の2つです。

  • \(\mathbb{R}^+ := \{x+yi \in \mathbb{C}|x>0 , y=0)\}\)
  • \(\mathbb{C}^+ := \{x+yi \in \mathbb{C}|x>0 \: \lor \: (x=0,y>0)\}\)

ネガティブ集合

正の方向を示すポジティブ集合に対し、負の向き(小さい)を示す元の集合がネガティブ集合です。

ネガティブ集合\(\N\)は、ポジティブ集合から下記のように定義されます。

\(N := -P=\{-x|x \in P\}\)

\(P ∩ N = \varnothing \)が成立しています。

拡張不等式

任意の複素数\(α, β, θ \ne 0\)に対し、次のように拡張不等式を定義します。

  • \(\displaystyle α <_θ β \iff \frac{β-α}{θ} \in P\)
  • \(\displaystyle α >_θ β \iff \frac{β-α}{θ} \in N\)
  • \(\displaystyle α ≦_θ β \iff \frac{β-α}{θ} \in P∪\{0\}\)
  • \(\displaystyle α ≧_θ β \iff \frac{β-α}{θ} \in N∪\{0\}\)

拡張不等式の性質

以下、代数体\(F\)に対し、\(α,β,γ,θ \in F (θ \ne 0) \)をその任意の元とし、拡張不等式の性質をいくつか述べます。

平行移動

\( α <_{[θ]} β \Rightarrow α+γ <_{[θ]} β+γ \) 

拡大回転

\( α <_{[θ]} β \Rightarrow αγ <_{[θγ]} βγ \)

推移律

\( α <_{[θ]} β, β <_{[θ]} γ \Rightarrow α <_{[θ]} γ \)

両辺交換

\( α <_{[θ]} β \Rightarrow β >_{[θ]} α \)

符号反転

\( α <_{[θ]} β \Rightarrow α >_{[-θ]} β \)

共役

\( α <_{[θ]} β \pod{P} \Rightarrow \overline{α} \overline{<}_{[\overline{θ}]} \overline{β} \)

この場合、ポジティブ集合も共役にする必要があります。

すなわち、\(\overline{P}=\{\overline{x}| x \in P \}\)

\(\overline{θ}\)は、\(θ\)の共役複素数を示しています。

拡張不等式の使用例

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