[行列解析3.4.P7]同時ジョルダン化が不可能な例

3.標準形と三角因子分解

3.4.P7

3.4.問題7

(3.4.2.10b)で述べられた同時相似変換は、「Weyr」を「ジョルダン」に置き換えた場合には必ずしも可能ではないことを示す例を詳しく説明せよ。

3.4.2.10b:

(b) (O’Meara と Vinsonhaler) \( \mathcal{F} = \{ A, A_1, A_2, \ldots \} \subseteq M_n \) を可換族とする。このとき、正則行列 \( T \in M_n \) が存在して

T^{-1} \mathcal{F} T = \{ W_A, T^{-1} A_1 T, T^{-1} A_2 T, \ldots \}

は上三角行列族となる。各行列 \( T^{-1} A_i T \) は (3.4.2.11) に整合するブロック対角行列である。もし \( T^{-1} A_i T \) のうち \( W_A(\lambda_\ell) \) に対応する対角ブロックを、サイズ \( w_1(A,\lambda_\ell), w_2(A,\lambda_\ell), \ldots, w_{q_\ell}(A,\lambda_\ell) \) に従って分割すると、その \( k \) 次上対角ブロックに沿ったブロックは (3.4.2.12) と同じ形の関係式に従う。

次を定義する:

J =
\begin{bmatrix}
J_2(0) & 0 \\
0 & J_2(0)
\end{bmatrix},
\quad
A =
\begin{bmatrix}
0 & I_2 \\
J_2(0) & 0
\end{bmatrix}

(a) \(A\) のブロックは上三角テプリッツ行列であることに注目し、なぜ \(A\) が \(J\) と可換でなければならないのか(計算なしで)説明せよ。

(b) 可換族 \(\{J,A\}\) に対し、\(J\) をジョルダン標準形に、かつ \(A\) を上三角形に変換する同時相似変換が存在すると仮定する。すなわち、可逆行列 \(S=[s_{ij}] \in M_4\) が存在して

S^{-1}JS = J, 
\quad S^{-1}AS = T = [t_{ij}] \ (\text{上三角行列})

とする。このとき次を確認せよ:

S =
\begin{bmatrix}
s_{11} & s_{12} & s_{13} & s_{14} \\
0 & s_{11} & 0 & s_{13} \\
s_{31} & s_{32} & s_{33} & s_{34} \\
0 & s_{31} & 0 & s_{33}
\end{bmatrix},
\quad
AS =
\begin{bmatrix}
s_{31} & * & * & * \\
* & s_{31} & * & * \\
0 & s_{11} & * & * \\
* & * & * & *
\end{bmatrix}
ST =
\begin{bmatrix}
s_{11}t_{11} & * & * & * \\
* & s_{11}t_{22} & * & * \\
s_{31}t_{11} & s_{31}t_{12}+s_{32}t_{22} & * & * \\
* & * & * & *
\end{bmatrix}

(ここで * の成分は議論に無関係である)。

(c) \(s_{31}=0\) かつ \(s_{11}=0\) を導け。なぜこれは矛盾となるのか説明せよ。

(d) よって、(b) で主張された性質を満たす \(\{J,A\}\) の同時相似変換は存在しないことを結論せよ。

ヒント

行列 \(J\) の中心化代数の構造を用いると、\(J\) と可換な行列の形が制限される。仮に同時相似変換が存在するとすると、その変換行列 \(S\) は特定の形を持つ。これを用いて \(AS=ST\) を比較し、成分ごとに矛盾を導く。

解答例

(a) 行列

J =
\begin{bmatrix}
J_2(0) & 0 \\
0 & J_2(0)
\end{bmatrix}

の中心化代数は、各ブロックが上三角テプリッツ行列からなる行列である。与えられた

A =
\begin{bmatrix}
0 & I_2 \\
J_2(0) & 0
\end{bmatrix}

はこの形に一致しているため、\(A\) は \(J\) と可換である。

(b) 仮に、可逆行列 \(S\) が存在して

S^{-1}JS = J,\quad S^{-1}AS = T

(ただし \(T\) は上三角行列)とする。このとき \(S\) は \(J\) と可換であるから、中心化代数の構造より

S =
\begin{bmatrix}
s_{11} & s_{12} & s_{13} & s_{14} \\
0 & s_{11} & 0 & s_{13} \\
s_{31} & s_{32} & s_{33} & s_{34} \\
0 & s_{31} & 0 & s_{33}
\end{bmatrix}

の形になる。また計算により

AS =
\begin{bmatrix}
s_{31} & * & * & * \\
* & s_{31} & * & * \\
0 & s_{11} & * & * \\
* & * & * & *
\end{bmatrix},
\quad
ST =
\begin{bmatrix}
s_{11}t_{11} & * & * & * \\
* & s_{11}t_{22} & * & * \\
s_{31}t_{11} & s_{31}t_{12}+s_{32}t_{22} & * & * \\
* & * & * & *
\end{bmatrix}

が得られる。

(c) 等式 \(AS=ST\) を成分ごとに比較する。まず (1,1) 成分より

s_{31} = s_{11}t_{11}

が得られる。また (3,1) 成分より

0 = s_{31}t_{11}

である。したがって

s_{31} = 0

が従う。これを先の式に代入すると

0 = s_{11}t_{11}

となる。さらに (3,2) 成分の比較より

s_{11} = s_{31}t_{12}+s_{32}t_{22} = s_{32}t_{22}

であるが、上三角行列 \(T\) の性質から \(t_{22}\) は有限であるため、最終的に

s_{11} = 0

が従う。

しかし \(S\) は可逆であるから、第一列が零ベクトルとなることはありえない。これは矛盾である。

(d) 以上より、\(J\) をジョルダン標準形に保ちながら \(A\) を上三角形にする同時相似変換は存在しない。したがって、Weyr 形では可能であっても、ジョルダン標準形では同時相似変換が必ずしも可能ではないことが示された。

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