[行列解析8.7.P4]非負行列の最大絶対値固有値の半単純性

8.正および非負行列

(8.7.P4)

問題

\( A \in M_n \) を非負で零でない行列とし、正の固有ベクトルをもつとする。

このとき、\( A \) のすべての最大絶対値の固有値が半単純であることを説明せよ。

解答例

1. 問題の前提と背景

\( A \in M_n \) を非負で零でない行列とし、正の固有ベクトル \( x \) をもつとする。

ペロン・フロベニウスの定理により、この正の固有ベクトルに対応する固有値は \( A \) のスペクトル半径 \( \rho(A) \) に一致する。

よって、\( Ax = \rho(A) x \) である。

2. スペクトル半径の特定と確率行列への変換

正の固有ベクトル \( x = [x_i] \) を用いて定義される対角行列 \( D = \mathrm{diag}(x_1, \dots, x_n) \) を用いた相似変換を考える。8.7.P3の結果から、変換行列 \( B \) を次のように定義すると、\( B \) は確率行列である。

B = \rho(A)^{-1} D^{-1} A D

\( A \) の固有値 \( \lambda \) と \( B \) の固有値 \( \mu \) の関係は
\( \mu = \rho(A)^{-1} \lambda \) である。

\(\) \( A \) のすべての最大絶対値の固有値は \( |\lambda| = \rho(A) \) を満たすため、対応する \( B \) の固有値 \( \mu \) は \( |\mu| = 1 \) を満たす。

3. 半単純性の結論

行列 \( B \) は確率行列であり、その行和ノルムは \( \| B \|_{\infty} = 1 \) であることから、\( B \) はべき有界(power bounded)である。

一般に、べき有界な行列において、最大絶対値 \( |\mu|=1 \) を満たす固有値に対応するジョルダンブロックのサイズは 1であるという定理が成り立っている。

これは、固有値 \( \mu \) の代数的重複度幾何学的重複度が一致することを意味し、\( \mu \) が \( B \) の半単純固有値であることを示す。

4. 相似変換による半単純性の継承

固有値の半単純性は、相似変換によって不変である。

行列 \( A \) と \( B \) は相似であるため、\( B \) の半単純固有値 \( \mu \) に対応する \( A \) の固有値 \( \lambda \) もまた半単純でなければならない。

したがって、\( A \) のすべての最大絶対値の固有値 \( \lambda \) は半単純であると結論づけられる。


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