[行列解析7.7.3]定理:ローナーの半順序とスペクトル条件によるエルミート行列の比較

7.7.3 ローナーの半順序とスペクトル条件によるエルミート行列の比較

定理 7.7.3 \( A, B \in M_n \) をエルミート行列とし、\( A \) が正定値であると仮定する。このとき次の性質が成り立つ。

(a) \( B \) が半正定値行列であるとき、次の3つの条件は同値である。

(1) \( A \! B \)(または \( A " B \))である。
(2) \( \rho(A^{-1}B) \le 1 \)(または \( \rho(A^{-1}B) \lt 1 \))である。
(3) 半正定値な収縮行列(または厳密収縮行列)\( X \) が存在して、次を満たす:

B = A^{1/2} X A^{1/2}

(b) \( A^2 \! B^2 \)(または \( A^2 " B^2 \))であることと、次の2つの条件が同値である。

(1) \( \sigma_1(A^{-1}B) \le 1 \)(または \( \sigma_1(A^{-1}B) \lt 1 \))である。
(2) 収縮行列(または厳密収縮行列)\( X \) が存在して、次を満たす:

B = AX = X^{*}A

証明

(a) まず、前定理の (a) と (d) から次が従う:

A \! B \quad \Leftrightarrow \quad I = A^{-1/2} A A^{-1/2} \! A^{-1/2} B A^{-1/2}

よって次が成り立つ。

1 \ge \sigma_1(A^{-1/2} B A^{-1/2})

ここで \( A^{-1/2}BA^{-1/2} \) は半正定値なので、

\sigma_1(A^{-1/2} B A^{-1/2}) = \lambda_{\max}(A^{-1/2} B A^{-1/2})
= \lambda_{\max}(A^{-1} B)

さらに、(7.6.2(a)) より \( A^{-1}B \) の固有値はすべて実かつ非負であるため、

\lambda_{\max}(A^{-1} B) = \rho(A^{-1} B)

が成り立つ。逆に、もし \( B = A^{1/2} X A^{1/2} \) であり、\( X \) が半正定値な収縮行列であれば、

A^{-1} B = A^{-1/2} X A^{1/2}

となる。このとき \( A^{-1}B \) は半正定値収縮行列と相似であるため、

\rho(A^{-1} B) = \rho(X) = \sigma_1(X) \le 1

が成り立つ。\( A " B \) の場合も同様であるが、このとき

I = A^{-1/2} A A^{-1/2} " A^{-1/2} B A^{-1/2}

なので、\( 1 \gt \sigma_1(A^{-1/2} B A^{-1/2}) \) が成り立つ。

(b) \( B^2 \) は半正定値であるため、次が成り立つ:

A^2 \! B^2 \quad \Leftrightarrow \quad I \! A^{-1} B^2 A^{-1}

したがって、

1 \ge \sigma_1(A^{-1} B^2 A^{-1}) = \lambda_{\max}((A^{-1}B)(A^{-1}B)^{*}) = \sigma_1(A^{-1}B)^2

と書ける。ここで \( X = A^{-1}B \) とおくと、\( X \) は収縮行列であり、\( B = AX \) はエルミート行列であるため、

AX = X^{*} A

が成り立つ。逆に、もし \( X \) が収縮行列であり \( B = AX = X^{*}A \) ならば、

B^2 = A X X^{*} A

よって

A^2 - B^2 = A (I - X X^{*}) A

が半正定値である。したがって \( A^2 \! B^2 \) が成り立つ。

演習問題

\( A \) が正定値、\( B \) が半正定値であるとする。もし \( \sigma_1(A^{-1}B) \le 1 \) ならば、\( A \! B \) かつ \( A^2 \! B^2 \) が成り立つことを説明せよ。
ヒント:すべての \( X \in M_n \) に対して \( \sigma_1(X) \ge \rho(X) \) が成り立つ(式 (5.6.9) 参照)。


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