4.3.50
定理 4.3.50.
\(x = [x_i] \in \mathbb{R}^n\)、\(z = [z_i] \in \mathbb{C}^n\) を与える。このとき、次の2つは同値である:
(a) \(x\) は \(\mathrm{Re}\, z = [\mathrm{Re}\, z_i]_{i=1}^n\) をメジャライズする。
(b) ある行列 \(A \in M_n\) が存在して、その固有値が \(z_1,\dots,z_n\) であり、かつ \(H(A) = (A + A^*)/2\) の固有値が \(x_1,\dots,x_n\) である。
証明.
\(A \in M_n\) の固有値を \(\lambda_1,\dots,\lambda_n\) とする。(2.3.1) により \(A = UTU^*\) と書ける。ただし \(T=[t_{ij}]\in M_n\) は上三角行列であり、対角成分は \(t_{ii} = \lambda_i\) である。計算すると
H(A) = U H(T) U^*, \quad \mathrm{diag}(H(T)) = [\mathrm{Re}\,\lambda_1,\dots,\mathrm{Re}\,\lambda_n]^T
が得られる。ここで \(\mathrm{diag}(H(T))\) は \(H(T)\) の固有値によってメジャライズされるが、それらは \(H(A)\) の固有値と一致する(定理 4.3.45)。
逆に、\(x\) が \(\mathrm{Re}\,z\) をメジャライズすると仮定する。このとき、あるエルミート行列 \(B=[b_{ij}]\in M_n\) が存在し、その固有値が \(x\) の成分であり、かつ \(\mathrm{diag}(B) = \mathrm{Re}\, z\) である(定理 4.3.48)。ここで \(T=[t_{ij}]\in M_n\) を、\(\mathrm{diag}(T) = z\)、かつ \(1 \le i \lt j \le n\) に対して \(t_{ij} = 2b_{ij}\) と定める。このとき、\(T\) の固有値は \(z_1,\dots,z_n\) であり、さらに
H(T) = B
となる。したがって \(B\) の固有値、すなわち \(x_1,\dots,x_n\) が \(H(T)\) の固有値である。◻︎
ここでメジャライズに関する最後の結果として、各 \(A,B\) がエルミート(ただし積 \(AB\) はそうでない場合がある)であるときの \(\mathrm{tr}(AB)\) の評価に関する議論を導入する。
練習問題.
\(x=[x_i], y=[y_i] \in \mathbb{R}^n\) とし、\(x\) が \(y\) をメジャライズすると仮定する。このとき、各 \(k=1,\dots,n\) に対して
\sum_{i=1}^k x_i^\downarrow \;\ge\; \sum_{i=1}^k y_i
が成り立ち、\(k=n\) の場合には等号となることを説明せよ。
練習問題.
\(x=[x_i], y=[y_i] \in \mathbb{R}^n\) とする。このとき、\(x\) が \(y\) をメジャライズすることと、\(-x\) が \(-y\) をメジャライズすることが同値であることを説明せよ。
行列解析の総本山

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