[行列解析5.4.4]定理: 有限次元空間における関数の比較とプレノルム

5.4.4

定理 5.4.4. \(f_{1}, f_{2}\) を体 \(F\)(\(F = \mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\))上の有限次元ベクトル空間 \(V\) 上で定義された実数値関数とする。\(B = \{x^{(1)}, \dots, x^{(n)}\}\) を \(V\) の基底とし、任意の \(z = [z_{1}, \dots, z_{n}]^T \in F^n\) に対して

x(z) = z_1 x^{(1)} + \cdots + z_n x^{(n)}

と定義する。ここで、\(f_{1}, f_{2}\) が次を満たすと仮定する:

(a) 正値性: 任意の \(x \in V\) に対して \(f_{i}(x) \geq 0\) であり、\(f_{i}(x) = 0\) となるのは \(x = 0\) の場合に限る。
(b) 斉次性: 任意の \(\alpha \in F\)、\(x \in V\) に対して \(f_{i}(\alpha x) = |\alpha| f_{i}(x)\) が成り立つ。
(c) 連続性: \(f_{i}(x(z))\) はユークリッドノルムに関して \(F^n\) 上で連続である。

このとき、有限の正の定数 \(C_{m}, C_{M}\) が存在して、任意の \(x \in V\) に対して

C_{m} f_{1}(x) \leq f_{2}(x) \leq C_{M} f_{1}(x)

が成り立つ。

証明. ユークリッド単位球面

S = \{ z \in F^n : \| z \|_2 = 1 \}

上で関数

h(z) = \frac{f_{2}(x(z))}{f_{1}(x(z))}

を定義する。仮定 (a) より、任意の \(z \in S\) に対して \(f_{i}(x(z)) \gt 0\) である。したがって、連続関数の積である \(h(z)\) は \(S\) 上で連続である(仮定 (c) を使用)。

ユークリッドノルムに関する Weierstrass の定理により、\(h\) は \(S\) 上で有限の最大値 \(C_{M}\) と正の最小値 \(C_{m}\) を取る。したがって、任意の \(z \in S\) に対して

C_{m} \leq \frac{f_{2}(x(z))}{f_{1}(x(z))} \leq C_{M}

すなわち

C_{m} f_{1}(x(z)) \\
\leq f_{2}(x(z)) \\
\leq C_{M} f_{1}(x(z))

が成り立つ。

さらに、任意の非零 \(z \in F^n\) に対して \(z / \|z\|_2 \in S\) なので、斉次性 (b) より

f_{i}\!\left( x\!\left(\frac{z}{\|z\|_2}\right) \right) \\
= f_{i}\!\left( \|z\|_2^{-1} x(z) \right) \\
= \|z\|_2^{-1} f_{i}(x(z))

が成り立つ。したがって、すべての非零 \(z \in F^n\) に対して

C_{m} f_{1}(x(z)) \\
\leq f_{2}(x(z)) \\
\leq C_{M} f_{1}(x(z))

が成立する。また \(z = 0\) の場合も \(f_{1}(0) = f_{2}(0) = 0\) であるため不等式は成立する。基底 \(B\) により、任意の \(x \in V\) はある \(z \in F^n\) に対して \(x = x(z)\) と表せるので、以上の不等式はすべての \(x \in V\) に対して成り立つ。■

有限次元の実または複素ベクトル空間上の実数値関数が、(5.4.4) に示された「正値性・斉次性・連続性」の3条件を満たすとき、その関数をプレノルム(pre-norm)と呼ぶ。

プレノルムの最も重要な例はノルムである。定理 (5.4.3) は、すべてのノルムが (5.4.4) の仮定 (c) の連続性を満たすことを示している。また、三角不等式を満たすプレノルムはノルムとなる。


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