[行列解析4.1.P22]正半定部分分解の一意性と非一意性

4.エルミート行列、対称行列、合同行列

4.1.P22

4.1.問題22

エルミート行列 \(A\) の正半定部分 \(A^{+}\) の定義 (4.1.12) において、対角因子 \(\Lambda^{+}\) は一意に定まるが、ユニタリ因子 \(U\) は一意ではない。

その理由を説明せよ。(2.5.4) の一意性の部分を用いて、\(A^{+}\)(および \(A^{-}\))がそれでもなおよく定義される理由を説明せよ。

ヒント

エルミート行列 \(A\) はユニタリ対角化により \(A = U \Lambda U^*\) と書ける。ここで \(\Lambda\) の対角成分を正と負に分けて \(\Lambda^+\), \(\Lambda^-\) を定義する。固有値は一意であるが、固有ベクトルの取り方(特に重複固有値に対して)は一意ではない点に注意する。

解答例

エルミート行列 \(A \in M_n\) に対して、スペクトル定理より、あるユニタリ行列 \(U\) と実対角行列 \(\Lambda = \operatorname{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)\) を用いて

A = U \Lambda U^*

と表せる。このとき、対角成分を \( \lambda_i^+ = \max(\lambda_i, 0) \), \( \lambda_i^- = \max(-\lambda_i, 0) \) と分けて

\Lambda^+ = \operatorname{diag}(\lambda_1^+, \ldots, \lambda_n^+), \quad
\Lambda^- = \operatorname{diag}(\lambda_1^-, \ldots, \lambda_n^-)

と定めると、

A^+ = U \Lambda^+ U^*, \quad A^- = U \Lambda^- U^*

と定義される。

まず、\(\Lambda\) の対角成分である固有値 \(\lambda_i\) は(順序を除いて)一意に定まるため、\(\Lambda^+\) および \(\Lambda^-\) も一意に定まる。

一方、ユニタリ行列 \(U\) は一般には一意ではない。特に、同じ固有値に対応する固有空間の中では、任意のユニタリ変換を施しても対角化は保たれるため、\(U\) は無数に存在する。

しかしながら、\(\Lambda^+\) は各固有空間ごとにスカラー倍(同一固有値に対して同じ値)であるため、その固有空間内で基底を取り替えても \( U \Lambda^+ U^* \) は変化しない。

実際、同じ固有値に対応する部分空間上で別のユニタリ行列 \(V\) を用いても、 \(U\) を \(U' = U V\) とすると、

U' \Lambda^+ U'^* = U V \Lambda^+ V^* U^* = U \Lambda^+ U^*

が成り立つ。ここで \(V \Lambda^+ V^* = \Lambda^+\) が成り立つのは、\(\Lambda^+\) が各固有空間でスカラー行列となっているためである。

したがって、ユニタリ因子 \(U\) は一意ではないが、\(A^+ = U \Lambda^+ U^*\) および \(A^- = U \Lambda^- U^*\) は一意に定まり、よく定義される。

以上より、対角因子の一意性により正半定部分 \(A^+\) と負半定部分 \(A^-\) は一意に定まり、ユニタリ因子の非一意性はこれらの定義に影響を与えないことがわかる。

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