[行列解析8.7.P3]非負行列の確率行列への変換

8.正および非負行列

(8.7.P3)

問題

\( A \in M_n \) を非負で零でない行列とし、正の固有ベクトル \( x = [x_i] \) をもつとする。\( D = \mathrm{diag}(x_1, \dots, x_n) \) とおく。

このとき、\( \rho(A)^{-1} D^{-1} A D \) が確率行列であることを示せ。

この結果により、正の固有ベクトルをもつ非負行列に関する多くの問題を、確率行列に関する問題に還元できる。

解答例

1. 準備と行列の定義

\( A \in M_n \) を非負で零でない行列とし、正の固有ベクトル \( x = [x_i] \) をもつとする。

\( x \) が \( A \) の固有ベクトルであることから、対応する固有値を \( \lambda \) とすると、\( Ax = \lambda x \) が成り立つ。ペロン・フロベニウスの定理により、この固有値は \( A \) のスペクトル半径 \( \rho(A) \) に一致するため、

Ax = \rho(A) x \quad (* \text{式})

対角行列 \( D \) は \( D = \mathrm{diag}(x_1, x_2, \dots, x_n) \) と定義され、\( x_i > 0 \) より \( D \) は可逆である。

2. 変換された行列 \( B \) の非負性

変換された行列を \( B = \rho(A)^{-1} D^{-1} A D \) とおく。\( B \) の \( (i, j) \) 成分 \( b_{ij} \) は、

b_{ij} = \rho(A)^{-1} \frac{1}{x_i} a_{ij} x_j

\( A \) は非負行列 (\( a_{ij} \ge 0 \)) であり、\( \rho(A) > 0 \) かつ \( x_i > 0, x_j > 0 \) であるため、すべての成分について \( b_{ij} \ge 0 \) が成り立つ。したがって、\( B \) は非負行列である。

3. 行和が 1 であることの証明

\( B \) の行和が 1 であることは、ベクトル \( \mathbf{1} = [1, 1, \dots, 1]^T \) を用いて \( B \mathbf{1} = \mathbf{1} \) を示すことで確認できる。

\( D \) の定義より \( x = D \mathbf{1} \) が成り立ち、\( \mathbf{1} = D^{-1} x \) である。この関係を用いて \( B \mathbf{1} \) を計算する。

B \mathbf{1} = B (D^{-1} x) = \left( \rho(A)^{-1} D^{-1} A D \right) (D^{-1} x) = \rho(A)^{-1} D^{-1} A x

ここで、(*式) の \( A x = \rho(A) x \) を代入すると、

B \mathbf{1} = \rho(A)^{-1} D^{-1} (\rho(A) x) = \rho(A)^{-1} \rho(A) (D^{-1} x) = D^{-1} x

最後に、\( D^{-1} x = \mathbf{1} \) を代入すると、

B \mathbf{1} = \mathbf{1}

これは、\( B \) のすべての行和が 1 であることを示している。

4. 結論

\( B = \rho(A)^{-1} D^{-1} A D \) は非負であり、すべての行和が 1 であるため、確率行列である。

この変換は、相似変換によって非負行列を確率行列に帰着させるものであり、非負行列に関する多くの解析(マルコフ連鎖、収束性、極限挙動など)を、比較的扱いやすい確率行列の理論に還元することを可能にする。


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