[行列解析8.7.P2]確率行列の |λ| = 1 を満たす固有値

8.正および非負行列

(8.7.P2)

問題

\( A \in M_n \) を確率行列とし、\( |\lambda| = 1 \) を満たす固有値 \( \lambda \) を考える。ただし、\( \lambda = 1 \) はそのような固有値の一つであるが、他にも存在する可能性がある。

\( A \) がべき有界であることを示し、さらに \( \lambda \) が \( A \) の半単純(semisimple)固有値であることを結論づけよ。

解答例

1. \( A \) がべき有界(Power Bounded)であることの証明

\( n \times n \) 行列 \( A \) が確率行列であることから、そのすべての成分 \( a_{ij} \) は非負であり、すべての行和は 1 である。

\sum_{j=1}^{n} a_{ij} = 1 \quad (\forall i)

行列のノルムとして、行和ノルム \( \| A \|_{\infty} \) を考える。このノルムは、各行の絶対値の和の最大値として定義される。

\| A \|_{\infty} = \max_i \sum_{j=1}^{n} |a_{ij}|

\( A \) の成分は非負であるため、\( |a_{ij}| = a_{ij} \) が成り立つ。したがって、\(A\) が確率行列であるという定義から、すべての行和は 1 であるため、

\| A \|_{\infty} = \max_i \sum_{j=1}^{n} a_{ij} = 1

任意の正の整数 \( k \) に対し、行列ノルムの性質 \( \| A^k \|_{\infty} \le \| A \|_{\infty}^k \) が成り立つ。これに \( \| A \|_{\infty} = 1 \) を代入すると、

\| A^k \|_{\infty} \le 1^k = 1

これは \( \| A^k \|_{\infty} \) が有界であることを意味し、\( A^k \) のすべての成分の絶対値は 1 以下となる。すなわち、行列の列 \( \{ A^k \}_{k=1}^{\infty} \) はべき有界である。

2. 固有値 \( \lambda \) が半単純(Semisimple)であることの結論

\( A \) の固有値 \( \lambda \) が \( |\lambda|=1 \) を満たすとする。

1. の証明により、\( A \) はべき有界である。

行列 \( A \) がべき有界であるという事実は、行列のスペクトル理論において、スペクトル半径 \( \rho(A)=1 \)(\( |\lambda|=1 \) はこのケースにあたる)を満たす固有値 \( \lambda \) に対応するジョルダンブロックのサイズは 1 でなければならないという重要な結果を導く。

ジョルダンブロックのサイズが 1 であるということは、固有値 \( \lambda \) の代数的重複度幾何学的重複度が一致することを意味する。幾何学的重複度は、固有空間の次元である。

\mathrm{dim}(\mathrm{Ker}(A - \lambda I)) = (\text{代数的重複度})

代数的重複度と幾何学的重複度が一致するとき、その固有値は半単純固有値であると定義される。

したがって、\( A \) がべき有界であるという結果から、\( |\lambda| = 1 \) を満たす固有値 \( \lambda \) は \( A \) の半単純固有値であると結論づけられる。

よって、\(lambda| = 1 \) を満たす固有値 \( \lambda \) は \( A \) の半単純固有値であると結論づけられる。


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