[行列解析7.3.3]定理:特異値とエルミート行列の固有値の関係

7.3.3定理:特異値とエルミート行列の固有値の関係

\( A \in M_{n,m} \) とし、\( q = \min\{n, m\} \)、さらに \( \sigma_1 \ge \cdots \ge \sigma_q \) を \( A \) の順序付けられた特異値とする。このとき、次のエルミート行列を定義する。

(7.3.4)
\mathcal{A} =
\begin{bmatrix}
0 & A \\
A^{*} & 0
\end{bmatrix}

この行列 \(\mathcal{A}\) の順序付けられた固有値は次のようになる。

-\sigma_1 \le \cdots \le -\sigma_q \le 
\underbrace{0 = \cdots = 0}_{|n - m|\text{ 個}} 
\le \sigma_q \le \cdots \le \sigma_1

証明:\( n \ge m \) の場合を考える。特異値分解 \( A = V \Sigma W^{*} \) をとる。ただし \( \Sigma = [\Sigma_m \; 0]^T \in M_{n,m} \) とし、ユニタリ行列 \( V = [V_1 \; V_2] \in M_{n} \) において \( V_1 \in M_{n,m} \) とする。

次を定義する:

\hat{V} = \frac{V_1}{\sqrt{2}}, \quad 
\hat{W} = \frac{W}{\sqrt{2}},

そして次の行列 \( U \in M_{m+n} \) を構成する。

U =
\begin{bmatrix}
\hat{V} & -\hat{V} & V_2 \\
\hat{W} & \hat{W} & 0_{m,\,n-m}
\end{bmatrix}

計算により \( U \) はユニタリ行列であることが分かり、次が成り立つ。

\mathcal{A}
= U
\begin{bmatrix}
\Sigma_m & 0 & 0 \\
0 & -\Sigma_m & 0 \\
0 & 0 & 0_{n-m}
\end{bmatrix}
U^{*}

もし \( m \lt n \) の場合は、代わりに \( A^{*} \) を考えれば同様に示される。∎

この定理は、エルミート行列の固有値の性質と、任意の行列の特異値の性質を結びつける架け橋となるものである。たとえば、この関係の応用例は式 (7.3.P16) に示されている。

続く2つの系(corollary)は、この定理を応用するものである。最初の系は、エルミート行列の固有値に関するWeylの不等式およびHermitian Hoffman–Wielandtの定理から導かれる特異値の摂動に関する結果である。2つ目の系は、エルミート行列に対するCauchyの交錯定理をもとにした交錯定理である。


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