[行列解析5.4.2]関数列とノルムの違いによる収束性の例

5.4.2

ここでは、関数列の収束性がノルムによってどのように異なるかを示す具体例を紹介します。有限次元の場合とは異なり、無限次元の空間では直感に反する現象が現れることがあります。

例 5.4.2.

区間 \([0,1]\) 上の実数値または複素数値連続関数全体の空間 \( C[0,1] \) における関数列 \(\{ f_k \}\) を次のように定義します。

f_k(x) =
\begin{cases}
0, & 0 \leq x \leq \tfrac{1}{k}, \\
2(k^{3/2}x - k^{1/2}), & \tfrac{1}{k} \leq x \leq \tfrac{3}{2k}, \\
2(-k^{3/2}x + 2k^{1/2}), & \tfrac{3}{2k} \leq x \leq \tfrac{2}{k}, \\
0, & \tfrac{2}{k} \leq x \leq 1,
\end{cases}\\
\quad k = 2,3,4,\dots

計算すると、次の結果が得られます。

\| f_k \|_{1} = \tfrac{1}{2} k^{-1/2} \;\;\to 0 \\
\quad (k \to \infty)
\| f_k \|_{2} = \tfrac{1}{\sqrt{3}} \\\quad \text{(すべての } k=1,2,\dots \text{ に対して)}
\| f_k \|_{\infty} = k^{1/2} \;\;\to \infty \\
\quad (k \to \infty)

したがって、関数列 \(\{ f_k \}\) は \(L^1\)-ノルムに関しては \(0\) に収束しますが、\(L^2\)-ノルムおよび \(L^\infty\)-ノルムに関しては収束しません。また、この関数列は \(L^2\)-ノルムに関して有界ですが、\(L^\infty\)-ノルムに関しては無界です。

演習.

上記の関数をスケッチし、\(L^1\)-ノルム、\(L^2\)-ノルム、\(L^\infty\)-ノルムについて述べられた性質を確認してください。

幸いなことに、このような(例 5.4.2 に見られるような)奇妙な現象は有限次元のノルム付き線形空間では起こりません。この事実の背景には、ノルム付き線形空間上の連続関数に関する基本的な結果があります。詳しくは付録Eを参照してください。


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