[行列解析4.4.P2] オートンの定理(実表現による証明)

4.エルミート行列、対称行列、合同行列

4.4.P2

4.4.問題2

4.4.4(c)オートンの定理

\(A\) が対称なら、\( A \bar{A} = AA^{*} \) の固有値は\(A\) の特異値の平方である。したがって \(A=UDU^{\top}\)、\(D=[d_{ij}]\) が上三角であり、\(d_{11},...,d_{nn}\) が特異値となる。
さらに \(A\) が対称なので \(D\) も対称であり、よって対角行列となる。置換行列 \(P\) を用いれば\(A=(UP)(P^{\top}P)(UP)^{\top}\) となり、特異値は任意の順序に並べ替え可能である。

実表現を用いた (4.4.4c) のアプローチの詳細を示せ。

行列 \(A \in M_n\) を対称とする。

もし \(A\) が特異であり
\(\mathrm{rank} A = r\)
ならば、ユニタリ合同で
\(A' \oplus 0_{n-r}\) に変換でき、
ここで \(A' \in M_r\) は正則かつ対称である(2.6.P20(b)参照)。

次に \(A\) が対称かつ正則とする。

\(A = A_1 + i A_2\) と分け、\(A_1, A_2\) は実、
\(x, y \in \mathbb{R}^n\) とする。

実表現を考える:

R_2(A) = 
\begin{pmatrix} 
A_1 & A_2 \\ 
A_2 & -A_1 
\end{pmatrix}

ここで \(A_1, A_2, R_2(A)\) は実対称である。

(a) \(R_2(A)\) は正則である。

(b) \(R_2(A) \begin{pmatrix} x \\ -y \end{pmatrix} = \lambda \begin{pmatrix} x \\ -y \end{pmatrix}\)
であることと、
\(R_2(A) \begin{pmatrix} y \\ x \end{pmatrix} = -\lambda \begin{pmatrix} y \\ x \end{pmatrix}\)
が同値である。

したがって、\(R_2(A)\) の固有値は ± のペアで現れる。

(c) 正の固有値 \(\lambda_1, \dots, \lambda_n\) に対応する \(R_2(A)\) の直交固有ベクトルを
\(\begin{pmatrix} x_1 \\ -y_1 \end{pmatrix}, \dots, \begin{pmatrix} x_n \\ -y_n \end{pmatrix}\)
とする。

行列
\(X = [x_1 \dots x_n]\)、
\(Y = [y_1 \dots y_n]\)、
\(\Lambda = \mathrm{diag}(\lambda_1, \dots, \lambda_n)\) とし、

V = 
\begin{pmatrix} X & Y \\ -Y & X \end{pmatrix}, \quad
\Sigma = \Lambda \oplus (-\Lambda)

とする。

すると \(V\) は実直交行列であり、
\(R_2(A) = V \Sigma V^{\top}\) が成り立つ。

さらに \(U = X - iY\) とすると、\(V = R_1(\overline{U})\) (1.3.P20参照)。

なぜ \(U\) がユニタリかを説明し、\(U \Lambda U^{\top} = A\) を示せ。

ヒント

  • まず特異な場合を正則な場合へ帰着する。
  • 複素対称行列の実表現 \(R_2(A)\) を考え、その固有値・固有ベクトルの性質を調べる。
  • \(R_2(A)\) の直交対角化からユニタリ行列 \(U\) を構成し、最終的に \(A=U\Lambda U^{\top}\) を示す。

解答例

まず、\(A\) が特異な場合を考える。

\(\operatorname{rank}A=r\) とすると、2.6.P20(b)より、あるユニタリ行列 \(Q\) が存在して、

Q^{*}AQ=
A'\oplus0_{n-r}

と書ける。ただし、\(A'\in M_r\) は正則な対称行列である。

したがって、正則な対称行列に対してオートンの定理を証明すれば、零ブロックを付け加えることにより一般の場合にも直ちに拡張できる。

以下では、\(A\) は正則な対称行列であると仮定する。

\(A\) を実部と虚部に分けて

A=A_1+iA_2

と書く。ただし、\(A_1,A_2\) は実対称行列である。

このとき、実表現

R_2(A)=
\begin{pmatrix}
A_1&A_2\\
A_2&-A_1
\end{pmatrix}

を考える。

\(A_1,A_2\) はともに実対称行列であるから、\(R_2(A)\) も実対称行列である。

まず、\(R_2(A)\) が正則であることを示す。

\(R_2(A)\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=0\) と仮定すると、

A_1x+A_2y=0,\qquad
A_2x-A_1y=0

を得る。

ここで \(z=x-iy\) とおくと、上の2式はまとめて

Az=0

と書ける。

\(A\) は正則であるから \(z=0\) となり、したがって \(x=y=0\) である。

ゆえに \(R_2(A)\) の零空間は自明であり、\(R_2(A)\) は正則である。

次に、\(R_2(A)\) の固有値の対称性を示す。

\(\lambda\in\mathbb{R}\) とし、

R_2(A)
\begin{pmatrix}
x\\
-y
\end{pmatrix}
=
\lambda
\begin{pmatrix}
x\\
-y
\end{pmatrix}

と仮定する。ただし、\(x,y\in\mathbb{R}^n\) である。

この固有値方程式は、

A_1x-A_2y=\lambda x,
\qquad
A_2x+A_1y=-\lambda y

と同値である。

一方、ベクトル \(\begin{pmatrix}y\\x\end{pmatrix}\) に対して \(R_2(A)\) を作用させると、

R_2(A)
\begin{pmatrix}
y\\
x
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
A_1y+A_2x\\
A_2y-A_1x
\end{pmatrix}

となる。

上の固有値方程式を用いれば、

A_1y+A_2x=-\lambda y,
\qquad
A_2y-A_1x=-\lambda x

となるので、

R_2(A)
\begin{pmatrix}
y\\
x
\end{pmatrix}
=
-\lambda
\begin{pmatrix}
y\\
x
\end{pmatrix}

を得る。

逆向きも全く同様に示されるので、

R_2(A)
\begin{pmatrix}
x\\
-y
\end{pmatrix}
=
\lambda
\begin{pmatrix}
x\\
-y
\end{pmatrix}
\iff
R_2(A)
\begin{pmatrix}
y\\
x
\end{pmatrix}
=
-\lambda
\begin{pmatrix}
y\\
x
\end{pmatrix}

が成り立つ。

したがって、\(R_2(A)\) の固有値は必ず正負の対となって現れる。

\(R_2(A)\) は実対称かつ正則であるから、正の固有値を

\lambda_1,\lambda_2,\ldots,\lambda_n

とすると、その全固有値は

\lambda_1,\ldots,\lambda_n,
-\lambda_1,\ldots,-\lambda_n

となる。

実対称行列 \(R_2(A)\) は直交対角化できるので、正の固有値 \(\lambda_1,\ldots,\lambda_n\) に対応する互いに直交する固有ベクトルを

\begin{pmatrix}
x_1\\
-y_1
\end{pmatrix},
\ldots,
\begin{pmatrix}
x_n\\
-y_n
\end{pmatrix}

とする。

これらを並べて

X=[x_1\ \cdots\ x_n],\qquad
Y=[y_1\ \cdots\ y_n]

とおき、さらに

\Lambda=\operatorname{diag}
(\lambda_1,\ldots,\lambda_n)

と定める。

このとき、(b)より負の固有値に対応する固有ベクトルは

\begin{pmatrix}
y_1\\
x_1
\end{pmatrix},
\ldots,
\begin{pmatrix}
y_n\\
x_n
\end{pmatrix}

と選ぶことができる。

そこで、

V=
\begin{pmatrix}
X&Y\\
-Y&X
\end{pmatrix},
\qquad
\Sigma=
\Lambda\oplus(-\Lambda)

と定める。

列ベクトルはすべて互いに直交し、長さ1に正規化されているので、\(V\) は実直交行列である。

また、各列は \(R_2(A)\) の固有ベクトルであるから、

R_2(A)V
=
V\Sigma

となる。

\(V\) は直交行列であるため、両辺の右から \(V^{\top}\) を掛ければ、

R_2(A)
=
V\Sigma V^{\top}

を得る。

さらに、複素行列

U=X-iY

を定める。

実表現の定義(1.3.P20)より、

V=R_1(\overline{U})

が成り立つ。

最後に、\(U\) がユニタリであり、さらに \(A=U\Lambda U^{\top}\) が成り立つことを示す。

\(V\) は実直交行列であり、

V=
\begin{pmatrix}
X&Y\\
-Y&X
\end{pmatrix}

であるから、\(V^{\top}V=I_{2n}\) より

X^{\top}X+Y^{\top}Y=I,
\qquad
X^{\top}Y=Y^{\top}X

が従う。

ここで

U=X-iY

とおくと、

\begin{aligned}
U^{*}U
&=(X^{\top}+iY^{\top})(X-iY)\\
&=X^{\top}X+Y^{\top}Y
+i(Y^{\top}X-X^{\top}Y)\\
&=I.
\end{aligned}

したがって、\(U\) はユニタリ行列である。

一方、実表現 \(R_1\) の積に関する性質より、

R_2(A)
=
R_1(\overline{U})
\bigl(\Lambda\oplus(-\Lambda)\bigr)
R_1(\overline{U})^{\top}

となる。

さらに、\(R_2\) の定義と \(R_1\) の積の保存性を用いると、これは複素行列では

A
=
U\Lambda U^{\top}

と同値である。

\(\Lambda\) は \(R_2(A)\) の正の固有値を並べた対角行列であり、これらは \(A\) の特異値に一致する。

したがって、任意の対称行列 \(A\) はユニタリ合同によって特異値を対角成分にもつ非負対角行列へ変換できる。

これがオートン(Autonne)の定理の実表現による証明である。

[行列解析4.4]ユニタリ合同と複素対称行列
この節の目次4.4.2 補題4.4 ユニタリ合同と複素対称行列複素エルミート行列と複素対称行列は、ともに複素平面における単位円板の解析写像の研究に現れる。もし \( f \) が単位円板上の複素解析関数で、正規化条件 \( f(0) = 0...


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