[行列解析4.1.P13]階数とトレースの不等式評価

4.エルミート行列、対称行列、合同行列

4.1.P13

4.1.問題13

\(A \in M_n\) が非零であるとする。

(a) \(\mathrm{rank}\,A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}\,A^*A}\) が成り立ち、等号成立はある非零 \(a \in \mathbb{C}\) とエルミート射影 \(H\) が存在して \(A = aH\) のときに限ることを示せ。

(b) A が正規行列ならば、\(\mathrm{rank}\,A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,H(A)|^2}{\mathrm{tr}\,H(A)^2}\) であることを説明せよ。

したがって、\(A\) がエルミートの場合には \(\mathrm{rank}\,A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}\,A^2}\) が成り立つ。

ヒント

内積 \( \langle X,Y\rangle = \mathrm{tr}(Y^*X) \) を用いると、行列空間でもコーシー・シュワルツの不等式が使える。\(A\) と単位行列との内積を考えることで不等式を導く。等号条件はコーシー・シュワルツの等号条件から従う。

解答例

(a) 行列空間における内積を

\langle X,Y\rangle = \mathrm{tr}(Y^*X)

で定める。このときコーシー・シュワルツの不等式より

|\mathrm{tr}(A)|^2 = |\langle A,I\rangle|^2 \le \langle A,A\rangle \langle I,I\rangle = \mathrm{tr}(A^*A)\cdot n

さらに、\(A\) の像の次元を \(r = \mathrm{rank}\,A\) とする。適当なユニタリ行列により \(A\) を

A = U \begin{pmatrix} A_1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} V

と書ける(ここで \(A_1\) は \(r\times r\) 行列)。このとき

\mathrm{tr}(A) = \mathrm{tr}(A_1), \quad \mathrm{tr}(A^*A) = \mathrm{tr}(A_1^*A_1)

であるから、再びコーシー・シュワルツの不等式を \(r\) 次元に適用すると

|\mathrm{tr}(A)|^2 \le r \, \mathrm{tr}(A^*A)

が得られる。したがって

\mathrm{rank}\,A = r \ge \frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}\,A^*A}

となる。

等号成立はコーシー・シュワルツの等号条件より、\(A_1\) がスカラー倍の単位行列であるとき、すなわちある \(a \ne 0\) と階数 \(r\) の射影 \(H\) が存在して

A = aH

と書ける場合に限る。このとき \(H\) はエルミート射影である。

(b) \(A\) が正規行列であれば、ユニタリ行列 \(U\) により

U^*AU = \mathrm{diag}(\lambda_1,\dots,\lambda_n)

と対角化できる。このとき

H(A) = \frac{1}{2}(A + A^*)

は同じ \(U\) により

U^*H(A)U = \mathrm{diag}(\mathrm{Re}\,\lambda_1,\dots,\mathrm{Re}\,\lambda_n)

と対角化される。したがって (a) の結果を \(H(A)\) に適用すると

\mathrm{rank}\,H(A) \ge \frac{|\mathrm{tr}\,H(A)|^2}{\mathrm{tr}\,H(A)^2}

が成り立つ。また明らかに \( \mathrm{rank}\,A \ge \mathrm{rank}\,H(A) \) であるから

\mathrm{rank}\,A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,H(A)|^2}{\mathrm{tr}\,H(A)^2}

が従う。

特に \(A\) がエルミートならば \(H(A)=A\) であるから

\mathrm{rank}\,A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}\,A^2}

が得られる。

補足

次の行列\(A\)で順に確認する。

A=\begin{pmatrix}
1&2&3\\
4&5&6\\
7&8&9
\end{pmatrix}

まず階数は \(\mathrm{rank}\,A = 2\) (行が一次従属)

次にトレース \( \mathrm{tr}\,A = 1+5+9 = 15 \)


つぎに \(A^*A = A^{\top}A \)

計算すると

A^{\top}A =
\begin{pmatrix}
66 & 78 & 90\\
78 & 93 & 108\\
90 & 108 & 126
\end{pmatrix}


したがって

\( \mathrm{tr}(A^*A) = 66+93+126 = 285 \)

不等式の右辺:

\frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}(A^*A)}=\frac{15^2}{285}
=\frac{225}{285}
=\frac{15}{19}
\approx 0.789

よって比較すると\(\mathrm{rank}\,A = 2 \ge \frac{15}{19}\)

結論

不等式 \(\mathrm{rank},A \ge \frac{|\mathrm{tr}\,A|^2}{\mathrm{tr}(A^*A)}\)はこの例でも成立している

なお右辺はかなり小さい値になるため、この不等式は一般に「鋭い評価」ではなく、下からの弱い評価であることも確認できる。

[行列解析4.1]エルミート行列の性質と特徴 (Properties and characterizations of Hermitian matrices)
4.1.1 定義(エルミート行列)4.1.2 定理(テプリッツ分解)4.1.3 定理4.1.4 定理4.1.5 定理4.1.6 定理4.1.7 定理4.1.8 定理4.1.9 定義(正定値・半正定値・不定値)4.1.10 定理4.1.11 ...


行列解析の総本山

総本山の目次📚

[行列解析]総本山📚
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

記号の意味🔎

[行列解析9.0]主要な記号一覧🔎
行列解析で使用している記号や用語の簡単な説明です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました