[行列解析8.7.P15]バーコフの定理における頂点の上界

8.正および非負行列

(8.7.P15)

問題

バーコフの定理における頂点の上界 \( n^2 - n + 1 \) を、
\( (n^2 - n + 1) - (n - 1) = n^2 - 2n + 2 \)
に改良できることを示せ。詳細を以下の手順で説明せよ:

(a) 任意の \( n \times n \) 二重確率行列 \( S = [s_{ij}] \) は、次の \( 2n - 1 \) 個の線形方程式を満たす:

\sum_{k=1}^n s_{ik} = 1, \quad i = 1, \dots, n, \\
\sum_{k=1}^n s_{ki} = 1, \quad i = 1, \dots, n-1

(b) これらの方程式を \( A \, \mathrm{vec}(S) = e \in \mathbb{R}^{2n-1} \) の形に書き直せ(式 (0.7.8) を参照)。

(c) \( A \in M_{2n-1, n^2} \) は満行ランクをもつ。

(d) \( \mathrm{nullspace}(A) \) の次元は \( n^2 - 2n + 1 \) である。

(e) 二重確率行列の集合は、\( \mathbb{R}^{n^2 - 2n + 1} \) における凸多面体とみなせる。

(f) 式 (8.7.3) および Carathéodory の定理(付録B参照)より、任意の二重確率 \( n \times n \) 行列は、高々 \( n^2 - 2n + 2 \) 個の置換行列の凸結合として表せる。

解答例

(a)

\( S = [s_{ij}] \)は二重確率行列であるから、行和、列和はそれぞれ\(1\)で下記の\(2n\)個の等式が成立する。

\sum_{k=1}^n s_{ik} = 1, \quad i = 1, \dots, n, \\
\sum_{k=1}^n s_{ki} = 1, \quad i = 1, \dots, n

このうち、最後の等式\(\sum_{k=1}^n s_{kn}\)は、

\sum_{k=1}^n s_{kn} 
= \sum_{i=0}^n\sum_{k=1}^n s_{ik}
  -\sum_{i=0}^{n-1} \sum_{k=1}^n s_{ki} \\
= \sum_{i=0}^n1 -\sum_{i=0}^{n-1} 1
 =  n-(n-1)=1
 

であるので、残りの\(2n-1\)個の等式から得ることができる事に注意し省略して考える。

(b)

A_i=\begin{bmatrix}
 0 & \cdots & 1 & \cdots & 0 \\
\end{bmatrix} \in M_{1,n}  \text{---(i列目のみ1)} \\
A_c=\begin{bmatrix}  
1 &  1 & \cdots & 1 \\
\end{bmatrix}  \in M_{1,n} \\

A=\begin{bmatrix}
A_1 & A_1 & \cdots & A_1 & A_1  & \\
\vdots & \vdots & & \vdots & \vdots \\
A_n & A_n & \cdots &A_n & A_n \\
A_c & 0 & \cdots & 0 &0 \\
0  & A_c & \cdots & 0 &0 \\
\vdots & \vdots  & \ddots  & \vdots &\vdots & \\
0 &  0 \ & \cdots & A_c  &0 \\
\end{bmatrix}  \in M_{2n-1,n^2}

と置くと、(a)の等式より、\( A \, \mathrm{vec}(S) = e \in \mathbb{R}^{2n-1} \)となる。

(c)

行列\(A\ \in M_{2n-1,n^2}\)は、どの行も他の行の組み合わせで表せないので、満行(full row)ランクである。

つまり、\( \mathrm{rank}(A)=2n-1\)である。

(d)

\( \mathrm{rank}(A)=2n-1\)であるので、

\( \dim \mathrm{nullspace}(A) = n^2 - (2n-1)\)となる。

(e)

バーコフの定理により、二重確率行列の集合(Birkhoff 多面体)は置換行列の凸包であり、任意の二重確率行列は置換行列の凸結合として表せる(極点は置換行列)。

すなわち、二重確率行列の集合は、\( \mathbb{R}^{n^2 - 2n + 1} \) における凸多面体とみなせる。

(f)

Carathéodory の定理(アフィン空間内の点はそのアフィン次元\(+1\) 個以下の極点の凸結合として表せる)を適用すると、アフィン次元が(d)より \(n^2−2n+1\) であることから、任意の二重確率行列は最多で \((n^2−2n+1)+1= n^2−2n+2\) 個の置換行列の凸結合として表される。

これで、元の上界\( n^2−n+1\) を改良して \(n^2−2n+2\) が成り立つことが示された。■


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