(8.7.P14)
問題
\( A \in M_n \) が二重確率かつ既約でない(reducible)場合、\( A \) は置換相似により、二重確率行列 \( A_1, A_2 \) からなる直和 \( A_1 \oplus A_2 \) の形に変換できることを示せ。
ヒント
既約でない非負行列はある順序入れ替え(置換行列)によってブロック上三角形形に同型化できる。二重確率行列は行和・列和が共に全て \(1\) であることから、上三角形形にした際の右上ブロックの全要素の和が \(0\) になることを示し、その非負性から右上ブロックが零行列であると結論する。これにより行列は置換により真の直和(ブロック対角)にできる。
解答例
\(A\) が既約でないという仮定より、ある置換行列 \(P\) が存在して次のようにブロック上三角行列にできる:
P^{T} A P = \begin{pmatrix} B & C\\[4pt] 0 & D \end{pmatrix}ここで \(B\) は \(k\times k\) 行列、\(D\) は \((n-k)\times(n-k)\) 行列(\(1\le k\le n-1\))であり、\(C\) は上部右側の \(k\times(n-k)\) ブロックである。置換は行・列の順序を変えるだけなので、\(P^{T}AP\) も二重確率行列であり、各行の和と各列の和はすべて \(1\) である。
\begin{pmatrix}
B & C\\[2pt]
0 & D
\end{pmatrix}
\mathbf{e}
=
\mathbf{e} \\
\begin{pmatrix}
B & C\\[2pt]
0 & D
\end{pmatrix}^{T}
\mathbf{e}
=
\mathbf{e}
ここで \(\mathbf{e}\) は全成分 \(1\) の列ベクトルである。行和の条件から
B\mathbf{e}_k + C\mathbf{e}_{n-k} = \mathbf{e}_k,\qquad
D\mathbf{e}_{\,n-k} = \mathbf{e}_{\,n-k},
また列和の条件から(上の \(k\) 列、下の \(n-k\) 列に分けて)
B^{T}\mathbf{e}_k = \mathbf{e}_k,\qquad
C^{T}\mathbf{e}_k + D^{T}\mathbf{e}_{\,n-k} = \mathbf{e}_{\,n-k}.
ここで行列要素はすべて非負であるから各ブロック内の要素和も非負である。行列全体の要素和は行和がすべて \(1\) であることから \(n\) である。一方、列和条件 \(B^{T}\mathbf{e}_k=\mathbf{e}_k\) より \(B\) の全要素和は
\mathbf{e}_k^{T}B\mathbf{e}_k = \mathbf{e}_k^{T}\mathbf{e}_k = k,
同様に \(D\) の全要素和は \((n-k)\) である。したがって \(C\) の全要素和は
\mathbf{e}_k^{T} C \mathbf{e}_{\,n-k}
=
\text{(全体の和)} - \text{(Bの和)} - \text{(Dの和)}
= n - k - (n-k) = 0.
しかし \(C\) の各要素は非負なので、全要素和が \(0\) であることは \(C\) の全成分が \(0\) であることを意味する。すなわち \(C=0\) である。従って置換によるブロック分解は実際にはブロック対角となる:
P^{T} A P =
\begin{pmatrix}
B & 0\\[4pt]
0 & D
\end{pmatrix}
= B \oplus D.
ここで \(B\) と \(D\) はそれぞれ二重確率行列(対応する行・列和が共に \(1\) を満たす)であるため、任意の既約でない二重確率行列 \(A\) は適当な置換行列により二重確率行列の直和 \(A_1\oplus A_2\) の形に変換できる。
行列解析の総本山
総本山の目次📚

記号の意味🔎




コメント