[行列解析8.7.P13]二重確率行列とユニタリ不変ノルム

8.正および非負行列

(8.7.P13)

問題

\( | \| \cdot \| | \) をユニタリ不変な行列ノルムとする。

このとき、任意の二重確率行列 \( A \in M_n \) に対して \( |\| A \|| \le |\| I \|| \) が成り立つことを示せ。

ヒント

二重確率行列はバーコフの定理(Birkhoff–von Neumann の定理)により置換行列の凸結合で表される。ユニタリ不変ノルムはノルムの性質(正斉次性と三角不等式)と特異値に依存する性質を持つため、置換行列が単位行列と同じ特異値ベクトルを持つことを用いれば、凸結合のノルムは単位行列のノルム以下であることを示せる。

解答例

まずバーコフの定理より、任意の二重確率行列 \(A\) は適切な置換行列 \(P_k\) と非負重み \(\alpha_k\) によって次のように表せる:

A=\sum_{k=1}^m \alpha_k P_k,\qquad \alpha_k\ge 0,\quad \sum_{k=1}^m\alpha_k=1.

ノルムの正斉次性と三角不等式より、

|\|A\|| = \left|\left\|\sum_{k=1}^m \alpha_k P_k\right\|\right|
\le \sum_{k=1}^m \alpha_k |\|P_k\||.

したがって各置換行列 \(P_k\) について \( |\|P_k\|| \le |\|I\|| \) が成り立てば結論が得られる。

置換行列は行列としてユニタリ(あるいは実においては直交)であり、したがってその特異値は全て \(1\) である。ユニタリ不変ノルムは行列の特異値ベクトルに対する対称ゲージ関数として定義されるため、特異値ベクトルが同じ行列は同じノルム値を持つ。

特に置換行列 \(P\) と単位行列 \(I\) は同じ特異値ベクトル \((1,\dots,1)\) を持つから、

|\|P\|| = |\|I\||\qquad(\text{任意の置換行列 }P).

以上を先の不等式に代入すると、

|\|A\|| \le \sum_{k=1}^m \alpha_k |\|P_k\|| = \sum_{k=1}^m \alpha_k |\|I\|| = |\|I\||.

したがって任意の二重確率行列 \(A\in M_n\) に対して \( |\|A\|| \le |\|I\|| \) が成り立つ。

これで示された。


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