8.5.5 補題:原始行列の冪もまた原始行列である
\( A \in M_n \) が非負で原始的であるとする。このとき、任意の整数 \( m \ge 1 \) に対して、\( A^m \) は非負であり、かつ原始行列である。
証明
\( A \) の十分大きな冪がすべて正行列になるので、任意の \( m \) に対しても \( A^m \) の十分大きな冪は正行列になる。
仮に \( A^m \) が既約でない(可約)とすると、任意の整数 \( p = 2, 3, \ldots \) に対して \( (A^m)^p = A^{mp} \) も可約となる。したがって、これらの行列は正行列にはなり得ない。これは前述の仮定と矛盾する。
よって、\( A \) のいかなる冪も可約にはなり得ず、したがって \( A^m \) はすべて原始行列である。
式 (8.5.2) による原始性の特徴づけは、計算上有効な判定法とはいえない。なぜなら、必要な冪の上限が明示されていないからである。次の定理では、有限(ただし非常に大きい)上限を与える。
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