8.3.3 系:非負行列のスペクトル半径の「min–max」表現
もし \( A \in M_n \) が非負行列であるならば、次が成り立つ:
\rho(A) = \max_{x \ge 0,\, x \ne 0} \, \min_{1 \le i \le n,\, x_i \ne 0}
\frac{1}{x_i} \sum_{j=1}^{n} a_{ij} x_j
証明
\( x \) を任意の非零非負ベクトルとし、次を定める:
\alpha = \min_{x_i \ne 0} \frac{\sum_{j} a_{ij} x_j}{x_i}
このとき \( Ax \ge \alpha x \) が成り立つ。したがって、前の定理(定理 8.3.2)より \( \rho(A) \ge \alpha \) が従う。ゆえに
\rho(A) \ge
\max_{x \ge 0,\, x \ne 0}
\min_{1 \le i \le n,\, x_i \ne 0}
\frac{1}{x_i} \sum_{j=1}^{n} a_{ij} x_j
ここで式 (8.3.1) を用いれば、非零非負ベクトル \( x \) が存在して \( Ax = \rho(A)x \) となる。したがって、\(\alpha = \rho(A)\) とおくことで上式の等号が成立することがわかる。
演習
次の行列とベクトルを考える:
A =
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2
\end{bmatrix},
\quad
x =
\begin{bmatrix}
1 \\
0
\end{bmatrix}
非負ベクトル \( x \) が正の成分をもたない場合、命題 (8.1.29) における 「\( Ax \ge \alpha x \Rightarrow \rho(A) \ge \alpha \)」という含意が必ずしも成り立たない理由を説明せよ。 また、(8.1.32) の「min–max」表現が非負行列に対して必ずしも正しくないことを示せ。
上の演習に示された行列 \( A \) は、正の左固有ベクトルも右固有ベクトルももたない。 しかし、正の左または右固有ベクトルをもつ非負行列は、いくつかの特別な性質をもつ。
行列解析の総本山

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