[行列解析8.1.21]補題:非負行列のスペクトル半径と行・列の和の関係

8.1.21 補題:非負行列のスペクトル半径と行・列の和の関係

行列 \( A = [a_{ij}] \in M_n \) が非負であるとき、次の不等式が成り立つ。

\rho(A) \le \|A\|_{\infty} = \max_{1 \le i \le n} \sum_{j=1}^{n} a_{ij}, 
\quad \rho(A) \le \|A\|_{1} = \max_{1 \le j \le n} \sum_{i=1}^{n} a_{ij}.

さらに、もし \(A\) のすべての行の和が等しいなら、次が成り立つ。

\rho(A) = \|A\|_{\infty}.

また、もし \(A\) のすべての列の和が等しいなら、次が成り立つ。

\rho(A) = \|A\|_{1}.

証明

任意の固有値 \(\lambda\) と任意の行列ノルム \(\|\cdot\|\) に対して、\(|\lambda| \le \rho(A) \le \|A\|\) が成り立つことが知られている。

もし \(A\) のすべての行の和が等しい場合、\( e = [1, 1, \dots, 1]^T \) は固有値 \(\lambda = \|A\|_{\infty}\) に対応する固有ベクトルである。したがって、

\|A\|_{\infty} = \lambda \le \rho(A) \le \|A\|_{\infty},

よって \(\rho(A) = \|A\|_{\infty}\) である。同様に、列の和がすべて等しい場合には、同じ議論を \(A^T\) に適用することで、 \(\rho(A) = \|A\|_{1}\) が得られる。

非負行列の最大の行和がそのスペクトル半径の上界となることはよく知られている。しかし興味深いことに、最小の行和が下界となる場合もある。


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