8.1.20 系:非負行列の部分行列とスペクトル半径に関する性質
\( A = [a_{ij}] \in M_n \) を非負行列とする。このとき、次の性質が成り立つ。
(a) \( \tilde{A} \) が \( A \) の主小行列(principal submatrix)であるとき、
\rho(\tilde{A}) \le \rho(A)
(b) 各 \( i = 1, \ldots, n \) について、
\max_{i=1,\ldots,n} a_{ii} \le \rho(A)
(c) \( A \) の主対角要素のいずれかが正であれば、
\rho(A) > 0
証明
(a) \( r = n \) の場合は自明である。\( 1 \le r \lt n \) とし、\( \tilde{A} \) を \( A \) の \( r \times r \) の主小行列とする。 このとき、ある順列行列 \( P \) が存在して次が成り立つ:
PAP^{T} =
\begin{bmatrix}
\tilde{A} & B \\
C & D
\end{bmatrix}
先行する定理(定理 8.1.18)より、
\rho(\tilde{A})
= \rho(\tilde{A} \oplus 0_{n-r})
= \rho\!\left(
\begin{bmatrix}
\tilde{A} & 0 \\
0 & 0
\end{bmatrix}
\right)
\le
\rho\!\left(
\begin{bmatrix}
\tilde{A} & B \\
C & D
\end{bmatrix}
\right)
= \rho(PAP^{T})
= \rho(A)
(b) \( r = 1 \) とすれば、各 \( i = 1, \ldots, n \) について \( a_{ii} \le \rho(A) \) が得られる。
(c) よって、主対角要素のいずれかが正であるならば、 \( \rho(A) \ge \max_{i=1,\ldots,n} a_{ii} \gt 0 \) が成り立つ。
練習問題
(1) 上の命題で、\( A \) が非負であるという仮定は重要である。次の行列を考えよ:
A =
\begin{bmatrix}
1 & 1 \\
-1 & -1
\end{bmatrix}
このとき \( 1 \le \rho(A) \) は成り立つだろうか?
(2) \( A > 0 \) のとき、なぜ \( \rho(A) > 0 \) となるのか説明せよ。
なお、今後非負行列に対するスペクトル半径の上界を求める結果を導く予定であり、定理 8.1.18 は任意の行列に対するスペクトル半径の上界を得る際に有用である。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。


コメント