[行列解析4.6.5]定義(共役-固有ベクトル・共役-固有値)

4.6.5

定義 4.6.5 \(A \in M_{n}\) が与えられているとする。ある \(\lambda \in \mathbb{C}\) に対して \(A \overline{x} = \lambda x\) を満たす非零ベクトル \(x \in \mathbb{C}^{n}\) を、\(A\) の共役-固有ベクトル(coneigenvector)と呼ぶ。このとき、スカラー \(\lambda\) を \(A\) の共役-固有値(coneigenvalue)という。共役-固有ベクトル \(x\) は共役-固有値 \(\lambda\) に対応するといい、対 \((\lambda, x)\) を \(A\) の共役-固有対(coneigenpair)と呼ぶ。

演習. \(A \in M_{n}\) が特異行列で、その零化空間を \(N\) とする。このとき、共役-固有値 0 に対応する \(A\) の共役-固有ベクトルは、複素部分空間 \(N\) 内の非零ベクトルであることを説明せよ(あまり面白い例ではない)。

\(A \in M_{n}\) の共役-固有ベクトルの張る空間は、1 次元の共役-不変部分空間(coninvariant subspace)である。補題 4.4.2 により、任意の \(A \in M_{n}\) は 1 次元または 2 次元の共役-不変部分空間をもつことが保証される。

もし \(S^{-1} A \overline{S} = \Lambda\) が対角行列ならば、恒等式

A \overline{S} = S \Lambda

が成り立つので、\(S\) の各列は \(A\) の共役-固有ベクトルである。したがって、\(\mathbb{C}^{n}\) には \(A\) の共役-固有ベクトルからなる基底が存在する。

逆に、もし \(\mathbb{C}^{n}\) に \(A\) の共役-固有ベクトルからなる基底 \(\{s_{1}, \ldots, s_{n}\}\) が存在するなら、\(S = [s_{1} \ \ldots \ s_{n}]\) は正則行列となり、ある対角行列 \(\Lambda\) が存在して

A \overline{S} = S \Lambda, \quad S^{-1} A \overline{S} = \Lambda

が成り立つ。したがって通常の対角化の場合と同様に、\(A \in M_{n}\) が共役対角化可能であるのは、それが \(n\) 個の一次独立な共役-固有ベクトルをもつ場合に限る。

さらに、もし \(A \overline{x} = \lambda x\) が成り立つなら、任意の \(\theta \in \mathbb{R}\) に対して

A (e^{i\theta} x) = e^{-i\theta} A \overline{x} = e^{-i\theta} \lambda x 
= (e^{-2i\theta} \lambda)(e^{i\theta} x)

が成り立つ。したがって、もし \(\lambda\) が \(A\) の共役-固有値ならば、任意の \(\theta \in \mathbb{R}\) に対して \(e^{-2i\theta}\lambda\) も \(A\) の共役-固有値となり、\(e^{i\theta}x\) は対応する共役-固有ベクトルである。

便利のため、同じ絶対値をもつ共役-固有値 \(e^{-2i\theta}\lambda\) の中から、唯一の非負の代表値 \(|\lambda|\) を選び、それに対応する共役-固有ベクトルを用いることが多い。

演習. \(A \in M_{n}\) が与えられ、\((\lambda, x)\) が \(A\) の共役-固有対であるとする。このとき集合

S = \{x : A \overline{x} = \lambda x\}

を考える。もし \(\lambda \neq 0\) なら、\(S\) は \(\mathbb{C}\) 上のベクトル空間ではない(したがって \(\mathbb{C}^{n}\) の部分空間でもない)が、\(\mathbb{R}\) 上のベクトル空間となる。すなわち、\(\lambda \gt 0\) の場合は実ベクトル空間、\(\lambda = 0\) の場合は複素ベクトル空間となり、これを共役-固有空間(coneigenspace)と呼ぶ。

さらに、もし \(A \overline{x} = \lambda x\) ならば、

A \overline{A} x = A(A \overline{x}) = A(\lambda x) 
= \overline{\lambda} A \overline{x} 
= \overline{\lambda} \lambda x 
= |\lambda|^{2} x

が成立する。したがって、\(\lambda\) が \(A\) の共役-固有値であるためには、\(|\lambda|^{2}\) が \(A \overline{A}\) の固有値(必ず非負)でなければならない。

演習. 行列

A = \begin{bmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix}

について、\(A \overline{A}\) が非負の固有値をもたないことを示し、\(A\) が共役-固有ベクトル(したがって共役-固有値)をもたない理由を説明せよ。

以上で観察した「共役-固有値の存在に必要な条件」は、十分条件でもある。


行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました