4.1.2
定理 4.1.2(テプリッツ分解)。
任意の行列 \(A \in M_n\) は、一意的に次の形に分解できる:
A = H + i K
ここで、\(H\) と \(K\) はともにエルミート行列である。また、一意的に次の形にも分解できる:
A = H + S
ここで、\(H\) はエルミート行列、\(S\) は歪エルミート行列である。
証明. 次のように書く:
A = \frac{1}{2}(A + A^*) + i \left[ \frac{1}{2i}(A - A^*) \right]
このとき、\(H = \frac{1}{2}(A + A^*)\) と \(K = \frac{1}{2i}(A - A^*)\) はともにエルミート行列である。
一意性の主張については、もし \(A = E + i F\) と書き、\(E\) と \(F\) がともにエルミート行列であるとすると、次が成り立つ:
2H = A + A^* = (E + i F) + (E + i F)^* = E + i F + E^* - i F^* = 2E
したがって、\(E = H\) である。同様にして \(F = K\) も示せる。表現 \(A = H + S\) に関する主張も同様に示される。
これらの観察から、もし \(M_n\) を複素数に類比すると考えるならば、エルミート行列は実数に相当することがわかる。複素数における共役演算の類比は、\(M_n\) における共役転置演算 \(*\) である。実数は \(z = \bar{z}\) を満たす複素数であり、エルミート行列は \(A = A^*\) を満たす行列である。ちょうど任意の複素数 \(z\) が一意的に \(z = s + i t\)(\(s, t \in \mathbb{R}\))と書けるのと同様に、任意の複素行列 \(A\) は一意的に \(A = H + i K\)(\(H, K\) はエルミート)と書ける。この類比を強めるさらなる性質も存在する。
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