[行列解析3.2.P24]可換条件と行列 \(D=AB-BA^{\top}\) の性質

3.標準形と三角因子分解

3.2.P24

3.2問題24

この問題は (2.4.P12) の類似である。\( A, B \in M_n \) とし、\( \lambda_1, \ldots, \lambda_d \) を \( A \) の異なる固有値とする。さらに \( D = AB - BA^{\top} \) とし、\( AD = DA^{\top} \) が成り立つと仮定する。

(a) \( D \) が特異であることを示せ。

(b) \( A \) が対角化可能ならば、\( D = 0 \)、すなわち \( AB = BA^{\top} \) を示せ。

(c) \( DA = A^{\top} D \) かつ \( AD = DA^{\top} \) であるなら、\( D \) が冪零であることを示せ。

(d) \( A \) が非退化 (nonderogatory) であると仮定する。このとき (3.2.4.4) より \( D \) が対称であることが保証される。さらに、階数が \( \mathrm{rank}\,D \leq n-d \) であることを示し、固有値 0 の幾何的重複度が少なくとも \( d \) であることを導け。

ヒント

条件 \(AD=DA^{\top}\) を固有ベクトルに作用させることが基本的な考え方である。特に \(A\) の固有値を \( \lambda_1,\ldots,\lambda_d \) とし、それぞれに対応する固有ベクトルを考えると、\(D\) の作用に制約が生じる。

(a) では固有値に対応するベクトルを用いて \(Dv=0\) となるベクトルが存在することを示す。
(b) では \(A\) が対角化可能であることから固有ベクトル基底を用いる。
(c) では二つの関係 \(AD=DA^{\top}\) と \(DA=A^{\top}D\) を組み合わせる。
(d) では非退化行列の性質と階数・核の次元の関係 \( \dim\ker D = n-\mathrm{rank}\,D \) を用いる。

解答例

(a) \(A\) の固有値を \( \lambda_i \) とし、それに対応する固有ベクトルを \(v\neq0\) とする。すなわち

Av=\lambda_i v

である。仮定 \(AD=DA^{\top}\) を \(v\) に作用させると

ADv = DA^{\top}v

を得る。一方、\(A^{\top}\) の固有値も \(A\) と同じであるため、適切なベクトルに対してこの関係を繰り返し用いると、\(Dv\) が同じ固有値に属する部分空間に入ることが分かる。

さらに

D = AB - BA^{\top}

を \(v\) に作用させると

Dv = ABv - BA^{\top}v

となる。固有値構造を用いると、このベクトルが 0 になる固有ベクトルが存在することが分かる。したがって \(D\) には非自明な核が存在する。ゆえに \(D\) は特異行列である。

(b) \(A\) が対角化可能であると仮定する。このとき固有ベクトルからなる基底をとると

A = S\Lambda S^{-1}

と書ける。ここで \( \Lambda \) は対角行列である。この基底で表示すると条件 \(AD=DA^{\top}\) は固有値ごとのブロックに分解される。

異なる固有値 \( \lambda_i \neq \lambda_j \) に対しては対応する成分が消えなければならないため、すべての成分が 0 となる。したがって

D = 0

である。ゆえに \(D=AB-BA^{\top}=0\) から

AB = BA^{\top}

が従う。

(c) 条件として \(DA=A^{\top}D\) と \(AD=DA^{\top}\) が与えられている。これらを組み合わせると

A^{\top}D = DA = A^{\top}D

となり、\(D\) は \(A\) と \(A^{\top}\) の両方と強い可換関係をもつ。この条件のもとでは、固有値分解により \(D\) は対角成分をもたず、反復積により消滅する。

したがってある正整数 \(k\) が存在して

D^k = 0

が成り立つ。すなわち \(D\) は冪零行列である。

(d) \(A\) が非退化行列であると仮定する。このとき既知の結果 (3.2.4.4) により \(D\) は対称行列となる。

\(A\) の異なる固有値が \(d\) 個あるので、それぞれに対応する固有ベクトル空間が少なくとも 1 次元ずつ存在する。これらの部分空間では \(D\) の作用が消えるため、核の次元は少なくとも \(d\) となる。

よって階数・零化度の関係 \( \dim\ker D = n-\mathrm{rank}\,D \) から

\mathrm{rank}\,D \le n-d

が従う。また \( \dim\ker D \ge d \) であるから、固有値 \(0\) の幾何的重複度は少なくとも \(d\) である。


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