[行列解析7.7.1]定義:ローナー部分順序と行列の大小関係

7.7.1 ローナー部分順序と行列の大小関係

定義7.7.1 

\( A, B \in M_n \) とする。

\( A \) と \( B \) がエルミート行列であり、かつ \( A - B \) が半正定値であるとき、
\( A \succeq B \)と書く。

また、\( A \) と \( B \) がエルミートであり、\( A - B \) が正定値であるとき、
\( A \succ B \)と書く。

したがって、\( A \) がエルミートかつ半正定値であるなら
\( A \succeq 0 \) であり、また \( A \) がエルミートかつ正定値であるなら
\( A \succ 0 \) である。

練習問題:

\( A \succeq B \) かつ \( B \succeq A \) であることと、\( A = B \) であることが同値であることを示せ。

練習問題:

関係 \( \! \) は推移的かつ反射的であるが、
\( n \gt 1 \) のとき全順序ではないことを示せ。

すなわち、\( n \gt 1 \) の場合には、
\( A \succeq B \) でも \( B \succeq A \) でもないエルミート行列
\( A, B \in M_n \) が存在する。

この練習問題から、(7.7.1)で定義された順序関係が部分順序であることがわかる。

この順序はしばしばローナー部分順序(Loewner partial order)と呼ばれる。

練習問題:

もし \( A \succeq B \) かつ \( C \succeq 0 \) であるなら、なぜ
\( A \circ C \succeq B \circ C \) が成り立つかを説明せよ(ヒント:\( A - B \succeq 0 \) および式 (7.5.3a) を参照)。

練習問題:

\( A \in M_n \) がエルミート行列で、最小固有値を \( \lambda_{\min}(A) \)、最大固有値を \( \lambda_{\max}(A) \) とする。このとき次が成り立つことを説明せよ(ヒント:(4.2.2(c)))。

\lambda_{\max}(A)I \succeq A \succeq \lambda_{\min}(A)I

練習問題:

\( A \in M_n \) がエルミート行列であるとき、次が成り立つ理由を説明せよ。

I \succeq A \quad \text{iff} \quad \lambda_{\max}(A) \le 1,
\quad
I \succ A \quad \text{iff} \quad \lambda_{\max}(A) \lt 1

実線形空間上の部分順序

実線形空間上の部分順序は、特定の閉凸錐を用いて定義できる。

すなわち、ある要素が他の要素より「大きい」とは、それらの差がその特定の錐に属することを意味する。

ローナー部分順序の場合、実線形空間の要素は \( n \times n \) のエルミート行列であり、閉凸錐の要素は半正定値行列である。

行列のサイズが1の場合、この線形空間は実数全体 \( \mathbb{R} \) となり、閉凸錐は区間 \([0, \infty)\) である。このとき、通常の実数における順序関係が得られる。

別の種類の部分順序が次章の議論の舞台を与える。

そこでは、実線形空間が \( M_n(\mathbb{R}) \) であり、閉凸錐は非負要素をもつ実行列全体で構成される。

練習問題:

例を挙げて、もし \( A \succeq B \) かつ \( A \ne B \) であっても、
\( A succ B \) が必ずしも成り立たないことを示せ。

次に、\( X \in M_{n,m} \) とする。

このとき、最大特異値(すなわちスペクトルノルム)\( \sigma_1(X) \) は次で定義される。

\sigma_1(X) = \lambda_{\max}(XX^{*})^{1/2} = \lambda_{\max}(X^{*}X)^{1/2} = \sigma_1(X^{*})

\( \sigma_1(X) \le 1 \) のとき、\( X \) を縮小写像(contraction)といい、さらに
\( \sigma_1(X) \lt 1 \) のとき、厳密な縮小写像(strict contraction)と呼ぶ。

ローナー部分順序のこれらの性質は、実数における基本的な大小関係の一般化である。


行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました