[行列解析5.4.10]有限次元ベクトル空間におけるコーシー列と収束の定理

5.4.10

定理 5.4.10. 有限次元の実または複素ベクトル空間 \( V \) 上に与えられたノルム \(\|\cdot\|\) を考える。ベクトルの数列 \(\{x^{(k)}\}\) が \( V \) のあるベクトルに収束するのは、その数列がノルム \(\|\cdot\|\) に関してコーシー列である場合に限る。

証明. まず \( V \) の基底 \( B \) を取り、同値なノルム \(\|[x]_{B}\|_{\infty}\) を考えることで、一般性を失うことなく \( V = \mathbb{R}^{n} \) または \( \mathbb{C}^{n} \) とし、ノルムを \(\|\cdot\|_{\infty}\) と仮定できる。

もし \(\{x^{(k)}\}\) がコーシー列であるならば、各成分列 \(\{x^{(k)}_{i}\}\)(\(i = 1, \ldots, n\))も実数または複素数のコーシー列となる。実数や複素数におけるコーシー列は必ず極限を持つため、各 \( i \) に対してスカラー \( x_{i} \) が存在し、

\lim_{k \to \infty} x^{(k)}_{i} = x_{i}

となる。したがって、

\lim_{k \to \infty} x^{(k)} = x = [x_{1}, \ldots, x_{n}]^{T}

が成り立つ。逆に、もしあるベクトル \( x \) に対して \(\lim_{k \to \infty} x^{(k)} = x\) であるならば、任意の \( k_{1}, k_{2} \) に対して

\|x^{(k_{1})} - x^{(k_{2})}\| \\
\leq \|x^{(k_{1})} - x\| + \|x - x^{(k_{2})}\|

となり、この数列はコーシー列である。

ここで用いた事実は、実数体および複素数体の基本的性質であり、数列がコーシー列であることと収束することが同値である、という性質である。これを実数体や複素数体の完備性という。この性質は有限次元の実・複素ベクトル空間において、任意のノルムに関しても拡張されることを示した。

しかしながら、無限次元のノルム付き線形空間では、この完備性が必ずしも成り立つとは限らない。


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