[行列解析3.1.P4]cAと相似な行列のスペクトル

3.標準形と三角因子分解

3.1.P4

3.1問題4

\(A \in M_n\) とする。ある複素数 \(c\) が \(|c|\neq 1\) を満たし、\(A\) が \(cA\) と相似であると仮定せよ。すると \(\sigma(A)=\{0\}\) であり、したがって \(A\) は冪零であることを示しなさい。

逆に、\(A\) が冪零なら、任意の \(0\neq c\in \mathbb{C}\) に対して \(A\) は \(cA\) と相似であることを示しなさい。

ヒント

相似な行列は同じスペクトルをもつことに注意する。

もし \(A\) が \(cA\) と相似であれば、\(\sigma(A)=\sigma(cA)\) である。一方、\(\sigma(cA)=\{c\lambda \mid \lambda\in\sigma(A)\}\) である。

この関係と \(|c|\neq 1\) を用いて、非零固有値が存在すると矛盾が生じることを示す。

逆向きでは、冪零行列のジョルダン標準形は固有値 \(0\) のジョルダンブロックのみからなることを用いる。各ジョルダンブロックが適当な対角行列との相似変換で定数倍に写ることを示せばよい。

解答例

まず、\(A\) が \(cA\) と相似であり、\(|c|\neq 1\) と仮定する。相似な行列は同じスペクトルをもつので \(\sigma(A)=\sigma(cA)\) である。

一般に、\(A\) の固有値を \(\lambda\) とすると、\(cA\) の固有値は \(c\lambda\) である。したがって \(\sigma(cA)=\{c\lambda \mid \lambda\in\sigma(A)\}\) である。

よって \(\sigma(A)=\{c\lambda \mid \lambda\in\sigma(A)\}\) が成り立つ。ここで、もし \(\lambda\neq 0\) が \(\sigma(A)\) に含まれているとする。

このとき \(\lambda, c\lambda, c^2\lambda, \dots\) もすべて \(\sigma(A)\) に含まれることになる。実際、\(\lambda\in\sigma(A)\) ならば \(c\lambda\in\sigma(A)\)、同様に \(c\lambda\in\sigma(A)\) ならば \(c^2\lambda\in\sigma(A)\) である。

しかし \(|c|\neq 1\) であるから、\(|c^k\lambda|\) は \(k\to\infty\) で \(0\) または無限大に発散する。したがって \(\{c^k\lambda\}\) は無限個の異なる値をもつ。これはスペクトルが有限集合であることに反する。

ゆえに非零固有値は存在せず、\(\sigma(A)=\{0\}\) である。したがって \(A\) の特性多項式は

\chi_A(t)=t^n

となる。ゆえに最小多項式も \(t^k\) の形であり、ある \(k\) に対して

A^k=0

が成り立つ。したがって \(A\) は冪零である。

逆に、\(A\) が冪零であるとする。このときジョルダン標準形 \(J\) は固有値 \(0\) のジョルダンブロックのみからなる。すなわち

J = \operatorname{diag}(J_{k_1}(0),\dots,J_{k_r}(0))

である。

各ブロック \(J_k(0)\) に対し、対角行列

D=\operatorname{diag}(1,c,c^2,\dots,c^{k-1})

を考えると、直接計算により

D^{-1} J_k(0) D = c J_k(0)

が成り立つ。したがって各ジョルダンブロックは \(c\) 倍と相似である。

よって全体として

J \sim cJ

である。もとの行列 \(A\) は \(J\) と相似であるから、相似関係の推移律より \(A\) は \(cA\) と相似である。


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