[行列解析9.E]付録:連続性・コンパクト性とワイエルシュトラスの定理

連続性・コンパクト性とワイエルシュトラスの定理

有限次元の実または複素ベクトル空間 \( V \) にノルム \( \| \cdot \| \) が与えられているとする。点 \( x \in V \) に対して、半径 \( \varepsilon \) の閉球を次のように定義する。

B_\varepsilon(x) = \{ y \in V : \| y - x \| \le \varepsilon \}

対応する開球は次のように定義される。

B_\varepsilon(x) = \{ y \in V : \| y - x \| \lt \varepsilon \}

集合 \( S \subseteq V \) が開集合であるとは、任意の \( x \in S \) に対して、ある \( \varepsilon \gt 0 \) が存在し、\( B_\varepsilon(x) \subseteq S \) が成り立つことである。集合 \( S \subseteq V \) が閉集合であるとは、その補集合 \( V \setminus S \) が開集合であることをいう。

また、集合 \( S \subseteq V \) が有界であるとは、ある \( r \gt 0 \) が存在して \( S \subseteq B_r(0) \) となることをいう。等価的にいえば、集合 \( S \) は、\( S \) 内の任意の収束列の極限点が再び \( S \) に含まれるとき閉集合であり、有限の半径の球に含まれるとき有界である。集合 \( S \subseteq V \) がコンパクトであるとは、それが閉かつ有界であることをいう。

集合 \( S \subseteq V \) と、その上で定義された実数値関数 \( f \) が与えられているとする。このとき、\(\inf_{x \in S} f(x)\) や \(\sup_{x \in S} f(x)\) が有限とは限らない。たとえ有限であっても、\( f(x_{\min}) = \inf_{x \in S} f(x) \)、\( f(x_{\max}) = \sup_{x \in S} f(x) \) を満たす点 \( x_{\min}, x_{\max} \in S \) が存在するとは限らない。すなわち、\( f \) が最大値や最小値をとるとは限らない。しかし、ある条件のもとでは、\( f \) が \( S \) 上で最大値と最小値をともにとることが保証される。

集合 \( S \subseteq V \) 上で定義された実数値または複素数値関数 \( f \) が、点 \( x_0 \in S \) において連続であるとは、任意の \( \varepsilon \gt 0 \) に対して、ある \( \delta \gt 0 \) が存在し、\( x \in S \) かつ \( \|x - x_0\| \lt \delta \) のとき \( |f(x) - f(x_0)| \lt \varepsilon \) となることをいう。関数 \( f \) が \( S \) 上で連続であるとは、\( S \) のすべての点で連続であることを意味する。また、\( f \) が \( S \) 上で一様連続であるとは、任意の \( \varepsilon \gt 0 \) に対し、ある \( \delta \gt 0 \) が存在して、任意の \( x, y \in S \) に対し \( \|x - y\| \lt \delta \) ならば \( |f(x) - f(y)| \lt \varepsilon \) となることをいう。

定理(ワイエルシュトラスの定理)

有限次元の実または複素ベクトル空間 \( V \) の与えられたノルム \( \| \cdot \| \) に関して、\( S \subseteq V \) がコンパクト集合であり、\( f : S \to \mathbb{R} \) が連続関数であるとする。このとき、次を満たす点 \( x_{\min}, x_{\max} \in S \) が存在する。

f(x_{\min}) \le f(x) \quad \text{for all } x \in S,
f(x) \le f(x_{\max}) \quad \text{for all } x \in S.

すなわち、連続関数 \( f \) はコンパクト集合 \( S \) 上で最大値と最小値をともにとる。

もちろん、ワイエルシュトラスの定理における \( \max_{x \in S} f(x) \) や \( \min_{x \in S} f(x) \) の値は、複数の点で達成されることもある。

もしワイエルシュトラスの定理の仮定(すなわち、\( S \) のコンパクト性や \( f \) の連続性)が満たされない場合、その結論は成り立たない可能性がある。ただし、\( S \) が有限次元ノルム線形空間の部分集合であるという仮定は本質的ではない。コンパクトおよび連続の定義を適切に拡張すれば、一般の位相空間におけるコンパクト部分集合上の連続実数値関数に対しても、ワイエルシュトラスの定理は成り立つ。

参考文献:

E. Kreyszig『Introductory Functional Analysis with Applications』(1978)第2章、 J. B. Conway『A Course in Functional Analysis』(1990)第3章を参照。


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