8.5.2 原始行列の判定条件とグラフ理論的特徴づけ
定理 8.5.2
もし \( A \in M_n \) が非負行列であるならば、次の2つは同値である。
A \text{ は原始行列である} \quad \Longleftrightarrow \quad A^m \gt 0 \text{ となる } m \ge 1 \text{ が存在する。}
証明
もし \( A^m \) が正の行列であるならば、行列 \( A \) に対応する有向グラフ \( \mathcal{G}(A) \) の任意の2点間に、長さ \( m \) の有向経路が存在することを意味する。 したがって \( \mathcal{G}(A) \) は強連結であり、\( A \) は既約行列である。
さらに、式 (8.4.3) により、\( A \) の最大絶対値をもつ固有値は \( \rho(A) \) だけであり、それは代数的に単純であることが保証される。
逆に、もし \( A \) が原始行列であるならば、
\lim_{m \to \infty} (\rho(A)^{-1}A)^m = xy^T \gt 0
が成り立つため、ある \( m \) が存在して \( (\rho(A)^{-1}A)^m \gt 0 \) となる。ゆえに \( A^m \gt 0 \) が成り立つ。
演習
もし \( A \in M_n \) が非負かつ既約であり、さらに \( A^m \gt 0 \) であるとき、すべての \( p = m + 1, m + 2, \ldots \) に対して \( A^p \gt 0 \) が成り立つ理由を説明せよ。
上の定理による特徴づけと、(8.4.6) における非負既約行列の最大絶対値固有値に関する情報とを組み合わせると、原始行列に対してグラフ理論的な判定基準を与えることができる。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。


コメント