8.2.7 定理:正行列のペロン根の代数的重複度と極限性質
\( A \in M_n \) が正であるとする。このとき、\( A \) の固有値としてのスペクトル半径 \( \rho(A) \) の代数的重複度は 1 である。 さらに、もし \( x \) と \( y \) がそれぞれ \( A \) の右ペロンベクトルおよび左ペロンベクトルであるならば、次が成り立つ:
\lim_{m \to \infty} (\rho(A)^{-1} A)^m = x y^T,
ここで、右辺は正の成分をもつ階数1の行列である。
証明. まず、\( \rho(A) \gt 0 \) であり、また \( x, y \) はそれぞれ正のベクトルであって
A x = \rho(A) x, \quad y^T A = \rho(A) y^T, \quad y^T x = 1
を満たすことがわかっている。定理 1.4.12(b) により、\( \rho(A) \) の代数的重複度は 1 であり、 さらに (1.4.7b) より、正則行列 \( S = [x \; S_1] \) が存在して次が成り立つ:
S^{-*} = [y \; Z_1], \quad
A = S \big([\rho(A)] \oplus B\big) S^{-1}.
ここで、\( \rho(A) \) は \( A \) の固有値の中で絶対値が最大の単純固有値であるため、 \(\rho(B) \lt \rho(A)\)、すなわち \(\rho(\rho(A)^{-1} B) \lt 1\) である。
定理 5.6.12 より次が導かれる:
\left(\frac{1}{\rho(A)} A \right)^m
= S
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & (\rho(A)^{-1} B)^m
\end{bmatrix}
S^{-1}.
\tag{8.2.7a}
\( m \to \infty \) とすると、\((\rho(A)^{-1} B)^m \to 0\) であるため、次の極限が得られる:
S
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & 0_{n-1}
\end{bmatrix}
S^{-1}
= [x \; S_1]
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & 0_{n-1}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
y^T \\
Z_1^T
\end{bmatrix}
= x y^T.
したがって、次が結論される:
\lim_{m \to \infty} (\rho(A)^{-1} A)^m = x y^T.
この行列 \( x y^T \) は正の要素をもつ階数1の行列である。 これで証明が完了する。◻︎
行列解析の総本山

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