8.2.5 定理:正行列の最大固有値の幾何的重複度
行列 \( A \in M_n \) が正であるならば、そのスペクトル半径 \( \rho(A) \) を固有値としてもつときの幾何的重複度は 1 である。
証明
\( w, z \in \mathbb{C}^n \) が非零ベクトルであり、次を満たすと仮定する:
Aw = \rho(A)w, \quad Az = \rho(A)z
このとき、ある複素数 \( \alpha \in \mathbb{C} \) が存在して \( w = \alpha z \) が成り立つ。 補題 8.2.3 により、実数 \( \theta_1, \theta_2 \) が存在し、次を満たすベクトル \( p = [p_j] \)、\( q = [q_j] \) が得られる:
p = e^{-i\theta_1} z \gt 0, \quad q = e^{-i\theta_2} w \gt 0
ここで、
\beta = \min_{1 \le i \le n} q_i p_i^{-1}, \quad r = q - \beta p
と定める。このとき \( r \ge 0 \) であり、少なくとも1つの成分が 0 である。もし \( r \neq 0 \) ならば、
0 \lt Ar = A q - \beta A p = \rho(A) q - \beta \rho(A) p = \rho(A)(q - \beta p) = \rho(A) r
が成り立つ。したがって \( \rho(A) r \gt 0 \) かつ \( r \gt 0 \) となり、これは少なくとも1つの成分が 0 であるという仮定と矛盾する。
ゆえに \( r = 0 \) であり、\( q = \beta p \) が成り立つ。したがって、
w = \beta e^{i(\theta_2 - \theta_1)} z
となり、\( w \) は \( z \) のスカラー倍である。したがって、\( \rho(A) \) の幾何的重複度は 1 であることが示された。
行列解析の総本山

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