7.8.3
アダマールの不等式の系(Hadamard’s Inequality)
系 7.8.3(アダマールの不等式)
\( B \in M_n \) を正則行列とする。列ごとに
B = [\, b_1 \ \cdots \ b_n \,], \quad B^{*} = [\, \beta_1 \ \cdots \ \beta_n \,]
と分割する。このとき次が成り立つ。
|\det B| \le \|b_1\|_2 \cdots \|b_n\|_2, \quad |\det B| \le \|\beta_1\|_2 \cdots \|\beta_n\|_2
式 (7.8.4) のそれぞれの不等式について、等号が成り立つのは \( B \) の列ベクトル(それぞれ行ベクトル)が互いに直交している場合に限られる。
(証明)正定値行列 \( A = B^{*}B \) に対して、定理 (7.8.2) を適用する。すると
\det A = |\det B|^2
が成り立つ。また \( A \) の主対角要素はそれぞれ \( \|b_1\|_2^2, \ldots, \|b_n\|_2^2 \) である。\( B \) の列ベクトルが互いに直交しているのは、\( A \) が対角行列である場合に限られる。
式 (7.8.4) の第2の不等式は、第1の不等式を \( B^{*} \) に適用することで得られる。□
演習
式 (7.8.4) は式 (7.8.2) から導かれたが、今度は逆に (7.8.4) から (7.8.2) を導け。ヒント:もし \( A \) が正定値ならば、(7.2.7) を用いて \( A = B^{*}B \) と書け(このような \( B \) は任意にとってよい)。このとき \( B \) に対して (7.8.4) を適用し、両辺を二乗せよ。
アダマールの不等式は、半正定値行列の特定の主小行列(principal submatrix)に関する命題でもある。以下では、同種の主小行列に関して成り立つ、アダマールの不等式と同値な3つの不等式を扱う。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

 
  
  
  
  
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