[行列解析7.1]正定値と半正定値の定義と性質

7.正定値および半正定値行列

目次

  • 7.1.2

7.1 定義と性質(Definitions and Properties)

エルミート行列 \( A \in M_n \) が正定値(positive definite)であるとは、次の条件を満たすときにいう。

x^{*} A x \gt 0 \quad \text{for all nonzero } x \in \mathbf{C}^{n}

同様に、\( A \) が半正定値(positive semidefinite)であるとは、次を満たすときにいう。

x^{*} A x \ge 0 \quad \text{for all nonzero } x \in \mathbf{C}^{n}

これらの定義には次の事実が暗に含まれている。すなわち、もし \( A \) がエルミート行列であれば、すべての \( x \in \mathbf{C}^{n} \) に対して \( x^{*} A x \) は実数である(式 (4.1.3) 参照)。逆に、もし \( A \in M_n \) であり、すべての \( x \in \mathbf{C}^{n} \) に対して \( x^{*} A x \) が実数であるならば、\( A \) はエルミート行列である。したがって、上記の定義で「\( A \) はエルミートである」と仮定することは慣例ではあるが、実際には不要である(式 (4.1.4) 参照)。

もちろん、もし \( A \) が正定値であれば、それは同時に半正定値でもある。この節では、(4.1) で始めたこれらの概念に関する議論を続ける。

演習問題

(1) \( M_1 \) における正定値行列および半正定値行列は何かを説明せよ。

(2) 次の行列が半正定値であるが、正定値ではないことを説明せよ。

\begin{bmatrix}
1 & 1 \\
1 & 1
\end{bmatrix}

(3) \( A = [a_{ij}] \in M_n \) が正定値であるとき、\(\bar{A} = [\bar{a}_{ij}]\)、\(A^{T}\)、\(A^{*}\)、および \(A^{-1}\) がすべて正定値であることを説明せよ。

ヒント:もし \( A y = x \) ならば、\( x^{*} A^{-1} x = y^{*} A^{*} y \) である。

行列 \( A \in M_n \) に対して、(7.1.1a) および (7.1.1b) の不等式を反転させることで、負定値(negative definite)および負半定値(negative semidefinite)を定義できる。あるいは同値的に、\(-A\) がそれぞれ正定値または半正定値であるといってもよい。

もし \( A \) がエルミート行列であり、\( x^{*} A x \) が正の値と負の値の両方をとる場合、\( A \) は不定(indefinite)であるという。


行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました