[行列解析6.1.10]厳密対角優位行列とその性質(Levy–Desplanquesの定理の拡張)

6.1.10

厳密に対角優位である行列は、その構造上、ゼロ固有値をもたないことが知られている。この性質は、ゲルシュゴリンの円板定理を用いることで自然に導かれる。本節では、厳密対角優位行列に関する重要な結果をまとめる。

定理 6.1.10 \( A = [a_{ij}] \in M_n \) が厳密に対角優位であるとする。このとき、次が成り立つ。

(a) \( A \) は非特異(nonsingular)である。

(b) すべての \( i = 1, \ldots, n \) について \( a_{ii} \gt 0 \) であるなら、\( A \) のすべての固有値の実部は正である。

(c) もし \( A \) がエルミート行列であり、かつ \( a_{ii} \gt 0 \) がすべての \( i = 1, \ldots, n \) について成り立つなら、\( A \) は半正定値ではなく正定値(positive definite)である。

演習. 次の2つの行列を考える。

\begin{bmatrix}
1 & 1 \\
1 & 1
\end{bmatrix}, \quad
\begin{bmatrix}
1 & 1 \\
1 & -1
\end{bmatrix}

これらの例を用いて、対角優位性が非特異性を保証するのに十分ではないこと、また厳密対角優位であることが非特異であるための必要条件ではないことを示せ。

さらに、式 (6.1.6) における追加パラメータを慎重に用いることで、非特異性を保証するための十分条件としての「厳密対角優位」の仮定をやや緩和することができる。


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