5.7.問題25
5.7.P25
数値半径 \(r(\cdot)\) はスペクトル支配的であり、弱いべき不等式 (5.7.20a) を満たします。この問題の目的は、実際には全ての \(m = 1, 2, \dots\) および全ての \(A \in M_n\) に対して強いべき不等式
r(A^m) \le r(A)^m
が成り立つことを示すことです。
(a) なぜ次を証明すれば十分か:もし \(r(A) \le 1\) ならば、全ての \(m = 1, 2, \dots\) に対して \(r(A^m) \le 1\) となること。
(b) 正の整数 \(m \ge 2\) を固定し、\({w_k} = \{ e^{2\pi i k/m} \}_{k=1}^{m}\) を m 次の単位根の集合とします。注意すべきは、\({w_k}\) が有限乗法群を成し、任意の \(j = 1, 2, \dots, m\) に対して \({w_j w_k}_{k=1}^{m} = {w_k}_{k=1}^{m}\) が成り立つことです。次の恒等式を観察します:
1 - z^m = \prod_{k=1}^{m} (1 - w_k z)
さらに、次を示します:
p(z) = \frac{1}{m} \sum_{j=1}^{m} \prod_{k \neq j} (1 - w_k z) = 1 \quad \text{任意の } z \in \mathbb{C}
(c) 次を示します:
I - A^m = \prod_{k=1}^{m} (I - w_k A), \quad I = \frac{1}{m} \sum_{j=1}^{m} \prod_{k \neq j} (I - w_k A)
(d) 任意の単位ベクトル \(x \in \mathbb{C}^n\), \(\|x\|_2 = 1\) および任意の \(A \in M_n\) に対して、次の恒等式を確認します:
1 - x^* A^m x = x^* (I - A^m) x = \left( \frac{1}{m} \sum_{j=1}^{m} z_j \right)^* \left( \prod_{k \neq j} (I - w_k A) x \right) \\ = \frac{1}{m} \sum_{j=1}^{m} z_j^* (I - w_j A) z_j, \quad z_j = \prod_{k \neq j} (I - w_k A) x
(e) 先の恒等式で \(A\) を \(e^{i \theta} A\) に置き換えると:
1 - e^{i m \theta} x^* A^m x = \frac{1}{m} \sum_{j=1}^{m} z_j^* (I - e^{i \theta} w_j A) z_j
任意の実数 \(\theta\) に対して、もし \(r(A) \le 1\) なら右辺の実部は非負であり、よって左辺の実部も非負になります。θが任意であるため、\(|x^* A^m x| \le 1\) が成り立ち、結果として \(r(A^m) \le 1\) となります。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。
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