[行列解析5.7.19]補題:スペクトル優越ノルムと半単純でない固有値

5.7.19

補題 5.7.19. \(G(\cdot)\) を \(M_{n}\) 上のスペクトル優越ノルムとし、\(A \in M_{n}\) を与え、\(\lambda\) を \(|\lambda| = \rho(A)\) を満たす \(A\) の固有値とする。もし \(\lambda\) が半単純でなければ、\(G(A) > \rho(A)\) が成り立つ。

証明

まず \(\rho(A) = 0\) の場合を考える。このとき 0 が \(A\) の半単純でない固有値であるのは、ちょうど \(A \neq 0\) の場合であり、この場合 \(G(A) > 0\) となる。したがって \(\rho(A) \neq 0\) と仮定できる。

任意の最大絶対値固有値は \(e^{i\theta}\rho(A)^{-1}A\) と正規化できるので、ここでは \(\lambda = 1\) が \(A\) の固有値であり、\(G(A) \geq \rho(A) = 1\) と仮定してよい。1 が半単純固有値でない場合、すなわち \(A\) のジョルダン標準形は

A = J_{m}(1) \oplus B

であり、ここで \(m \geq 2\)、\(B \in M_{n-m}\)、\(\rho(B) \leq 1\) とする。このとき \(G(A) > 1\) を示す必要がある。

前の演習により \(A = J_{m}(1) \oplus B\) と仮定できる。\(E_{m} \in M_{m}\) を、\(m,1\) 成分だけが 1 で他はすべて 0 の行列とする。\(F = E_{m} \oplus 0_{n-m}\) とし、

A = I_{m} \oplus B + J_{m}(0) \oplus 0_{n-m}

と書く。任意の \(\varepsilon > 0\) に対して

A_{\varepsilon} = A + \varepsilon F = (I_{m} + J_{m}(0) + \varepsilon E_{m}) \oplus B

と定義する。このとき

\rho(I_{m} + J_{m}(0) + \varepsilon E_{m}) = 1 + \varepsilon^{1/m} > \rho(B)

が成り立つ(参照:1.2.P22)。したがって

1 + \varepsilon^{1/m} = \rho(A_{\varepsilon}) \leq G(A_{\varepsilon}) = G(A + \varepsilon F) \leq G(A) + G(\varepsilon F) = G(A) + \varepsilon G(F)

もし \(G(A) = 1\) であれば、\(\varepsilon^{1/m} \leq \varepsilon G(F)\)、すなわち \(1 \leq \varepsilon^{(m-1)/m} G(F)\) が成り立つ必要がある。しかし \(\varepsilon \to 0\) とすると \(\varepsilon^{(m-1)/m} \to 0\) であるため、この不等式はすべての \(\varepsilon > 0\) に対して成り立たない。したがって \(G(A) > 1\) が従う。


行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました