[行列解析5.6.2]定理:誘導された行列ノルムの性質

5.6.2

定理 5.6.2. (5.6.1) で定義された関数 \(\|\!|\cdot\|\!|\) は次の性質をもつ。

(a) \(\|\!|I\|\!| = 1\)

(b) 任意の \(A \in M_n\)、\(y \in \mathbb{C}^n\) に対して次が成り立つ:

\|Ay\| \leq \|\!|A\|\!| \, \|y\|

(c) \(\|\!|\cdot\|\!|\) は \(M_n\) 上の行列ノルムである。

(d) 次が成り立つ:

\|\!|A\|\!| = \max_{\|x\| = \|y\|_D = 1} |y^{*} A x|

証明

(a) \(\|\!|I\|\!| = \max_{\|x\|=1} \|Ix\| = \max_{\|x\|=1} \|x\| = 1\)。

(b) 不等式は \(y = 0\) の場合には自明に成り立つ。\(y \neq 0\) とすると、単位ベクトル \(y/\|y\|\) を考える。このとき

\|\!|A\|\!| \\
= \max_{\|x\|=1} \|Ax\| \\
\geq \left\|A \frac{y}{\|y\|}\right\| \\
= \frac{\|Ay\|}{\|y\|}

したがって \(\|\!|A\|\!| \, \|y\| \geq \|Ay\|\) が成り立つ。

(c) 5つの公理を確認する。

公理 (1): \(\|\!|A\|\!|\) は非負値関数の最大値であるため、常に非負である。

公理 (1a): \(A \neq 0\) ならば、ある単位ベクトル \(y\) が存在して \(Ay \neq 0\) となる。このとき \(\|\!|A\|\!| \geq \|Ay\| \gt 0\)。一方 \(A = 0\) なら、任意の \(x\) に対して \(Ax = 0\) なので \(\|\!|A\|\!| = 0\)。

公理 (2):

\|\!|cA\|\!|  \\
= \max_{\|x\|=1} \|cAx\|  \\
= \max_{\|x\|=1} (|c| \cdot \|Ax\|)  \\
= |c| \max_{\|x\|=1} \|Ax\|  \\
= |c| \|\!|A\|\!|

公理 (3): 任意の単位ベクトル \(x\) に対して

\|(A+B)x\|  \\
= \|Ax + Bx\|  \\
\leq \|Ax\| + \|Bx\| \\
\leq \|\!|A\|\!| + \|\!|B\|\!|

したがって \(\|\!|A+B\|\!| = \max_{\|x\|=1} \|(A+B)x\| \leq \|\!|A\|\!| + \|\!|B\|\!|\)。

公理 (4): 任意の単位ベクトル \(x\) に対して

\|ABx\| \\
= \|A(Bx)\| \\
\leq \|\!|A\|\!| \cdot \|Bx\| \\
\leq \|\!|A\|\!| \cdot \|\!|B\|\!|

したがって \(\|\!|AB\|\!| = \max_{\|x\|=1} \|ABx\| \leq \|\!|A\|\!| \cdot \|\!|B\|\!|\)。

(d) 双対定理 (5.5.9(c)) を用いて次を計算する:

\max_{\|x\| = \|y\|_D = 1} |y^{*}Ax|  \\
= \max_{\|x\|=1} \left( \max_{\|y\|_D=1} |y^{*}Ax| \right)  \\
= \max_{\|x\|=1} \|Ax\|_{DD}  \\
= \max_{\|x\|=1} \|Ax\|  \\
= \|\!|A\|\!|


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