5.6.13
系 5.6.13. \( A \in M_n \) と \( \epsilon \gt 0 \) が与えられたとする。このとき、ある定数 \( C = C(A, \epsilon) \) が存在して、全ての \( k = 1, 2, \dots \) および全ての \( i, j = 1, \dots, n \) に対して次が成り立つ:
|(A^k)_{ij}| \leq C (\rho(A) + \epsilon)^k
証明. 次の行列を考える:
\tilde{A} = (\rho(A) + \epsilon)^{-1} A
この行列のスペクトル半径は1未満であることがわかる。したがって \(\tilde{A}^k \to 0\) が \( k \to \infty \) で成立する。特に、列 \(\{\tilde{A}^k\}\) は有界であるため、ある有限の定数 \( C \gt 0 \) が存在して、全ての \( k = 1, 2, \dots \) および全ての \( i, j = 1, \dots, n \) に対して次が成り立つ:
|(\tilde{A}^k)_{ij}| \leq C
これは主張された上界である。
演習. 次の行列を考える:
A = \begin{pmatrix} a & 1 \\ 0 & a \end{pmatrix}
\( A^k \) を明示的に計算し、(5.6.13) において常に \(\epsilon = 0\) をとることはできないことを示せ。
個々の成分 \((A^k)_{ij}\) が \( k \to \infty \) で \(\rho(A)^k\) の挙動を示すとは限らないが、任意の行列ノルム \( \lVert \cdot \rVert \) に対して列 \(\{\lVert A^k \rVert\}\) は漸近的に \((\rho(A))^k\) の挙動を示す。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。
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