[行列解析3.0]序論

3.標準形と三角因子分解

3.0 序論

3.0 序論

2つの行列が相似かどうかをどのように判定できるでしょうか。

次の行列を考えてみましょう。

A =
\begin{bmatrix}
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0 & 0
\end{bmatrix},\quad
B =
\begin{bmatrix}
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 0
\end{bmatrix}
\tag{3.0.0}

これらの行列は同じ固有値を持ち、その結果、同じ特性多項式、トレース(trace)、および行列式を持ちます。またランクも同じですが、\( A^2 = 0 \) である一方、\( B^2 \neq 0 \) なので、\( A \) と \( B \) は相似ではありません。

与えられた正方複素行列 \( A, B \) が相似かどうかを判定する1つの方法は、あらかじめ特定の形をもつ特殊な行列の集合を用意し、両方の行列が相似変換によって同じ特殊行列に変形できるかどうかを調べることです。もし可能なら、相似関係は推移的かつ反射的であるため、\( A \) と \( B \) は相似であるといえます。もしできなければ、\( A \) と \( B \) は相似ではないと結論づけたいところです。それでは、この目的にふさわしい「特殊な行列の集合」とは何でしょうか。

任意の正方複素行列は上三角行列に相似であることが知られています。しかし、同じ主対角線成分を持ちながら、非対角成分が異なる2つの上三角行列もなお相似である可能性があります(2.3.2b)。したがって、一意性の問題が生じます。つまり、\( A \) と \( B \) を2つの異なる上三角行列に変形できても、その主対角線が同じである場合、それだけでは \( A \) と \( B \) が相似でないとは断定できないのです。

上三角行列のクラスは我々の目的には大きすぎます。では、より小さいクラスである対角行列ではどうでしょうか。この場合、一意性の問題はなくなりますが、今度は存在の問題が現れます。すなわち、相似類の中には対角行列を含まないものがあるのです。

そこで現れる有効な折衷案が、対角行列と上三角行列の中間に位置する「ジョルダン行列」です。ジョルダン行列とは特殊なブロック上三角形式であり、すべての複素行列に対して相似変換によって達成できます。2つのジョルダン行列は、その対角ブロックが同じである場合に限り相似であり、その順序は考慮されません。さらに、ジョルダン行列 \( J \) の相似類に属する他のいかなる行列も、\( J \) よりも少ない非零の非対角成分を持つことはできません。

相似は行列論における多くの同値関係の1つにすぎません。(0.11)には他の例も挙げられています。行列集合に対して同値関係が与えられたとき、我々は与えられた行列 \( A, B \) が同じ同値類に属するかどうかを判定したいと考えます。この判定問題に対する古典的で広く成功しているアプローチは、その同値関係に対応する代表行列の集合を特定することです。この集合は次の性質を満たさなければなりません:

(a) 各同値類に少なくとも1つの代表が含まれること。
(b) 代表が異なる場合、それらは同値ではないこと。

したがって、与えられた \( A, B \) の同値性を判定するには、両者をその同値関係の下で代表行列に変形し、同じ代表になるかどうかを調べればよいのです。このような代表の集合を、その同値関係に対する「標準形(canonical form)」と呼びます。

例えば、(2.5.3) ではユニタリ相似の下で正規行列に対する標準形が与えられています。この場合、対角行列が代表集合となり、2つの対角行列が置換相似である場合には同一視されます。別の例として、特異値分解 (2.6.3) はユニタリ同値の下で \( M_n \) に対する標準形を与えます。ここでは、\( \Sigma = \mathrm{diag}(\sigma_1, \ldots, \sigma_n) \) の形をした対角行列が代表集合となります。


参考:Matrix Analysis:Second Edition ISBN 0-521-30587-X.(当サイトは公式と無関係です)

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