7.8.15 補題:半正定値行列の部分行列に基づく変形
\( A = [a_{ij}] \in M_n \) を半正定値行列とし、次のように分割する:
A =
\begin{bmatrix}
a_{11} & x^{*} \\
x & A_{22}
\end{bmatrix},
\quad A_{22} \in M_{n-1}.
次の関数 \(\alpha(A)\) を定義する:
\alpha(A) =
\begin{cases}
\dfrac{\det A}{\det A_{22}}, & \text{if } A_{22} \text{ is positive definite}, \\
0, & \text{otherwise.}
\end{cases}
このとき、次の行列
\tilde{A} =
\begin{bmatrix}
a_{11} - \alpha(A) & x^{*} \\
x & A_{22}
\end{bmatrix}
もまた半正定値である。
証明
\(A\) が特異行列である場合は示すべきことは何もない。したがって、\(A\) が正定値行列であると仮定する。
シルベスターの条件(式 (7.2.5))を後続の主小行列式(trailing principal minors)に適用する。 各 \(k = 2, \ldots, n\) に対して、後続小行列式は
\det(\tilde{A}[\{k, \ldots, n\}]) = \det(A[\{k, \ldots, n\}])
となり、すべて正である。さらに
\det \tilde{A} = \det A - \alpha(A) \det A_{22}
= \det A - \det A = 0
したがって、\(\tilde{A}\) は半正定値である。□
演習
式 (7.8.15) を用いて帰納法によりアダマールの不等式 (7.8.2) を証明せよ。
アダマールの不等式 (7.8.2) は次のように表すことができる:
\det A \le \det (I \circ A)
ここで、\(I \circ A\) は \(A\) の対角要素を保持し、非対角要素をゼロにした行列である。 この不等式は、アダマールが導いた重要な結果であり、行列式と要素の積との関係を示す。 次の定理は、この観察を大きく一般化したものである。
行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

 
  
  
  
  
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