7.4.1.5 系:特異値と半正定値性に関する結果
行列 \(A, B \in M_{m,n}\) とし、\( q = \min\{m, n\} \) とおく。さらに、\(A\) および \(B\) の特異値をそれぞれ非増加順に並べて、\(\sigma_1(A) \ge \cdots \ge \sigma_q(A)\)、および \(\sigma_1(B) \ge \cdots \ge \sigma_q(B)\) とする。このとき次が成り立つ。
(a) 次の不等式が成り立つ:
\|A - B\|_2^2 \ge \sum_{i=1}^q (\sigma_i(A) - \sigma_i(B))^2
等号が成り立つのは、かつその場合に限り、次が成立するときである:
\mathrm{Re}\, \mathrm{tr}(AB^*) = \sum_{i=1}^q \sigma_i(A)\sigma_i(B)
(b) もし
\|A - B\|_2^2 = \sum_{i=1}^q (\sigma_i(A) - \sigma_i(B))^2
が成り立つならば、\(AB^*\) および \(B^*A\) はともに半正定値である。したがって、\(\mathrm{tr}(AB^*)\) は実数かつ非負である。
証明
(a) 与えられた不等式は式 (7.4.1.3a) に対応する。したがって、ここでは等号成立の条件のみを考える。この等号が成立するのは、(7.4.1.3a) の証明中に現れる唯一の不等式が等号となる場合、すなわち次が成り立つ場合に限られる。
\mathrm{Re}\, \mathrm{tr}(AB^*) = \sum_{i=1}^q \sigma_i(A)\sigma_i(B)
(b) もし
\|A - B\|_2^2 = \sum_{i=1}^q (\sigma_i(A) - \sigma_i(B))^2
が成り立つならば、直前の定理および式 (7.4.1.3d) により次が導かれる:
\mathrm{Re}\, \mathrm{tr}(AB^*) \le \sum_{i=1}^q \sigma_i(AB^*) \le \sum_{i=1}^q \sigma_i(A)\sigma_i(B) = \mathrm{Re}\, \mathrm{tr}(AB^*)
したがって、
\mathrm{Re}\, \mathrm{tr}(AB^*) = \sum_{i=1}^q \sigma_i(AB^*)
となり、前の定理により \(AB^*\) が半正定値であることが分かる。また、\(\|A - B\|_2^2 = \|B^* - A^*\|_2^2\) であることから、同様に \(B^*A\) も半正定値である。
行列解析の総本山

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