[行列解析7.2.10]定理:グラム行列とその性質

7.2.10定理:グラム行列とその性質

定理 7.2.10. 内積空間 \( V \) において、内積を \( \langle \cdot , \cdot \rangle \) とし、ベクトル \( v_1, \ldots, v_m \) を取る。このとき、グラム行列 \( G = [ \langle v_j, v_i \rangle ]_{i,j=1}^{m} \in M_m \) に対して次が成り立つ。

(a) \( G \) はエルミートかつ半正定値である。
(b) \( G \) が正定値であることと、ベクトル \( v_1, \ldots, v_m \) が一次独立であることは同値である。
(c) \(\operatorname{rank} G = \dim \operatorname{span}\{ v_1, \ldots, v_m \}\) である。

証明

(a) 与えられた内積から誘導されるノルムを \( \| \cdot \| \) とし、\( x = [x_i] \in \mathbb{C}^m \) とおく。(5.1.3) の性質より、\( G \) はエルミート行列であり、次が成り立つ:

x^{*} G x 
= \sum_{i,j=1}^{m} \langle v_j, v_i \rangle \overline{x_i} x_j
= \left\langle \sum_{j=1}^{m} x_j v_j, \sum_{i=1}^{m} x_i v_i \right\rangle
= \left\| \sum_{i=1}^{m} x_i v_i \right\|^{2} \ge 0

したがって \( G \) は半正定値である。

(b) 上の不等式が等号を満たすのは、\( \sum_{i=1}^{m} x_i v_i = 0 \) のとき、かつそのときに限る。もし \( x \ne 0 \) で、ベクトル \( v_1, \ldots, v_m \) が一次独立ならば、これは成立しない。したがって、この場合 \( G \) は正定値である。 逆に、もし任意の \( x \ne 0 \) に対して \( x^{*} G x \gt 0 \) であるならば、上式より \( \sum_{i=1}^{m} x_i v_i \ne 0 \) であることが分かる。したがって、\( v_1, \ldots, v_m \) は一次独立である。

(c) \( r = \operatorname{rank} G \)、\( d = \dim \operatorname{span}\{v_1, \ldots, v_m\} \) とする。行列 \( G \) は階数主行列であるため、サイズ \( r \) の非特異(したがって正定値)な主小行列をもつ。この主小行列は、ベクトル \( v_i \) のうち \( r \) 個に対応するグラム行列である。部分 (b) より、これらのベクトルは一次独立であるため、\( r \le d \) である。

一方で、\( d \) 個のベクトル \( v_i \) は一次独立であり、それらのグラム行列(これも部分 (b) により正定値)は \( G \) の主小行列となる。したがって \( d \le r \) である。以上より、

r = d

が成り立つ。

演習

(1) \( A \in M_n \) が半正定値行列で階数 \( r \) をもつとする。このとき、\( v_1, \ldots, v_n \in \mathbb{C}^n \) が存在して、\(\operatorname{rank}[v_1 \ \ldots \ v_n] = r\) かつ

A = [ v_i^{*} v_j ]_{i,j=1}^{n}

が成り立つことを示せ。これは標準内積に関するグラム行列である。ヒント:式 (7.2.10) の直前の議論を参照せよ。

(2) \( A \in M_n \) が内積空間におけるベクトル \( v_1, \ldots, v_n \) のグラム行列であるとする。このとき、任意の主小行列は、元のベクトル列 \( v_1, \ldots, v_n \) のうちいくつかを選んだ部分集合に対応するグラム行列であることを示せ。

(3) 定理 (7.2.10) を念頭に、(7.1.P25)、および (7.1.P12) と (7.1.P16) について考察せよ。それぞれの場合において、ベクトル空間 \( V \)、内積 \( \langle \cdot , \cdot \rangle \)、ベクトル \( v_i \)、およびグラム行列 \( G \) は何かを説明せよ。


行列解析の総本山

[行列解析]総本山
行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました