7.1.11.半正定値なエルミート部分をもつ行列の階数と零空間
補題 7.1.11. \( A \in M_n \) のエルミート部分が半正定値であるとする。すなわち、
H(A) = \tfrac{1}{2}(A + A^*)
である。このとき次が成り立つ。
(a) \( \operatorname{nullspace}(A) \subset \operatorname{nullspace}(H(A)) \) かつ \( \operatorname{nullspace}(A^*) \subset \operatorname{nullspace}(H(A)) \)
(b) \( \operatorname{rank}(H(A)) \leq \operatorname{rank}(A) \)
(c) 次の3つの条件は同値である。
(i)\; A \text{ と } H(A) \text{ は同じ零空間をもつ。} \\ (ii)\; A^* \text{ と } H(A) \text{ は同じ零空間をもつ。} \\ (iii)\; \operatorname{rank}(A) = \operatorname{rank}(H(A)).
証明. (a) \( A = H + iK \) と書く。ただし \( H, K \) はともにエルミート行列とする。\( x \in \mathbb{C}^n \) を任意にとる。もし \( x^*A = 0 \) または \( Ax = 0 \) が成り立つならば、
x^* A x = 0
である。これにより \( x^* H x = 0 \) が従う。式 (7.1.6) によって \( Hx = 0 \) が成り立つ。
(b) (a) から直ちに従う。
(c) (a) における2つの包含関係が等号で成り立つことは、(b) における階数の等号が成り立つことと同値である。
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演習. \( A \in M_n \) に対して \( H(A) \) が正定値であるならば、なぜ \( A \) が非特異(正則)であるかを説明せよ。
行列解析の総本山

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行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。
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