[行列解析6.1.8]スペクトル半径と対角スケーリングに関する補題と練習問題

6.1.8

次の系(Corollary)は、行列のスペクトル半径に関する有用な評価式を与えるものである。

系 6.1.8 \( A = [a_{ij}] \in M_n \) とする。このとき次が成り立つ。

\rho(A) \le \min_{p_1, \ldots, p_n \gt 0} \max_{1 \le i \le n} \frac{1}{p_i} 
\sum_{j=1}^{n} p_j |a_{ij}|
\rho(A) \le \min_{p_1, \ldots, p_n \gt 0} \max_{1 \le j \le n} p_j 
\sum_{i=1}^{n} \frac{1}{p_i} |a_{ij}|

演習問題 上記の系を証明せよ。

次に、具体的な 2×2 行列を考える。

\( A = \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \) がすべての成分において正の実数値を持つとする。

(a) 正の対角成分を持つすべての 2×2 対角行列 \( D \) に対して、次の最小値を与えるような明示的な対角行列 \( \tilde{D} \) を求めよ。

\| \tilde{D}^{-1} A \tilde{D} \|_{\infty} = 
\min_{D} \| D^{-1} A D \|_{\infty}

(b) 上で求めた \( \tilde{D} \) に対して、\(\| \tilde{D}^{-1} A \tilde{D} \|_{\infty}\) および \(\rho(A)\) を計算し、それらが等しいことを確かめよ。

式 (8.1.31) から次のことがわかる。\( A \) が正の要素をもつ \( n \times n \) の実行列(より一般には非負かつ既約な行列)であるとき、 すべての対角行列 \( D \) について \( D^{-1} A D \) の最大行和の最小値は、\( A \) のスペクトル半径に等しい。

ただし、もし \( A \) に負の要素が含まれている場合には、この関係が成り立たないこともある。

次の例を考える。

A = 
\begin{bmatrix}
1 & 1 \\
-1.5 & 2
\end{bmatrix}

このとき次が成り立つことを示せ。

\rho(A) \lt 
\min \{ \| D^{-1} A D \|_{\infty} : D = \mathrm{diag}(p_1, p_2),\ p_1, p_2 \gt 0 \}

行列の固有値が特定の集合に含まれる(あるいは含まれない)という追加情報がある場合には、 ゲルシュゴリンの円板定理(Gersgorin disc theorem)と組み合わせることで、固有値のより精密な位置を求めることができる。

たとえば、\( A \) がエルミート行列であるなら、その固有値はすべて実数である。 したがって、固有値は実数集合 \( \mathbb{R} \) とゲルシュゴリン集合 \( G(A) \) の共通部分、 すなわち有限個の閉区間の和集合に含まれる。

演習問題 式 (6.1.1) から、次の各行列の固有値の位置について何が言えるか考察せよ。 (i)反エルミート行列(skew-Hermitian)、 (ii)ユニタリ行列(unitary)、 (iii)実直交行列(real orthogonal)。

平方行列が非特異であるのは、ゼロがそのスペクトルに含まれない場合に限る。 したがって、固有値が含まれることがわかっている集合からゼロを除外できる条件を考えることは重要である。


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