6.1.5.系
次の系(Corollary 6.1.5)は、行列のスペクトル半径とその要素の絶対値和との関係を示すものである。これは、行列のノルムと密接に関係している。
もし \( A = [a_{ij}] \in M_n \) であるならば、次が成り立つ。
\rho(A) \le \min \left\{ \max_i \sum_{j=1}^{n} |a_{ij}|, \; \max_j \sum_{i=1}^{n} |a_{ij}| \right\}
この結果は驚くべきものではない。なぜなら、これは単に \( \rho(A) \le \|A\|_{\infty} \) および \( \rho(A) \le \|A\|_{1} \) を意味しており(式 (5.6.9) 参照)、よく知られたノルムの性質を反映しているからである。
しかし、この事実を幾何学的に導くことができるという点が興味深い。すなわち、ゲルシュゴリンの定理を用いることで、スペクトル半径の上界を「円盤の配置」という視点から理解できる。
行列 \( S \) が正則であるとき、\( S^{-1} A S \) は \( A \) と同じ固有値を持つ。したがって、ゲルシュゴリンの定理を \( S^{-1} A S \) に適用することで、行列 \( A \) の固有値が存在しうる新たな領域を得ることができる。
特に便利な選択として、\( S = D = \mathrm{diag}(p_1, p_2, \ldots, p_n) \) とし、すべての \( p_i \gt 0 \) とする場合を考える。このとき、ゲルシュゴリンの円板定理を次の行列
D^{-1} A D = \left[ \frac{p_j a_{ij}}{p_i} \right]
およびその転置行列に適用すると、行列 \( A \) の固有値の包含領域に関するさらなる結果が得られる。
行列解析の総本山

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行列解析の総本山。行列解析の内容を網羅的かつ体系的に整理しています。線形代数の学習を一通り終えた方が、次のステップとして取り組むのに最適です。行列に関する不等式を研究するには、行列解析の知識が欠かせません。
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