5.7.17
定理 5.7.17. \(M_{n}\) 上のベクトルノルム \(G(\cdot)\) が、ある \(C_{n}\) 上のノルムと互換であるのは、不等式 (5.7.15) を満たす場合に限る。
証明
一方向はすでに (5.7.14) において証明済みである。他方向を示すために、行列ノルム \(\| \cdot \|\,|\) が存在して、すべての \(A \in M_{n}\) に対して
G(A) \geq \| A \|\,|
が成り立つことを示せば十分であると主張する。そのような行列ノルムが存在すると仮定しよう。そこで、それと互換な \(C_{n}\) 上のノルム \(\|\cdot\|\) をとる (5.7.13)。任意の \(x \in C_{n}, A \in M_{n}\) に対して
\|Ax\| \leq \|A\|\,| \, \|x\| \leq G(A)\|x\|
が成り立つ。したがって、このノルム \(\|\cdot\|\) も \(G(\cdot)\) と互換である。
ここで与えられた \(A \in M_{n}\) に対して、多くの方法でそれを行列の積や積の和として表すことができる。次を定義する:
\|A\|\,| = \inf \Bigl\{ \sum_{i} G(A_{i1}) \cdots G(A_{ik_{i}}) : \sum_{i} A_{i1}\cdots A_{ik_{i}} = A, \, A_{ij} \in M_{n} \Bigr\}
この関数 \(\| \cdot \|\,|\) は非負で斉次である。正であることを確かめよう。もし \(\sum_{i} A_{i1}\cdots A_{ik_{i}} = A \neq 0\) ならば、(5.7.16) とスペクトルノルムに関する三角不等式から次が得られる:
\sum_{i} G(A_{i1}) \cdots G(A_{ik_{i}}) \geq \sum_{i} \gamma(G) \, \| A_{i1}\cdots A_{ik_{i}} \|_{2} \geq \gamma(G) \, \|A\|_{2} \gt 0
したがって \(\| \cdot \|\,|\) は正である。また、\(\| \cdot \|\,|\) が三角不等式と劣乗法則を満たすことは、その定義が積の和に関する下限であることから従う。
演習問題
演習 1. 上で構成した関数 \(\| \cdot \|\,|\) が劣加法性(subadditive)および劣乗法性(submultiplicative)である理由を丁寧に説明せよ。ヒント:もし \(C = A+B\) または \(C = AB\) ならば、\(A, B\) のそれぞれを積の和で表すことで \(C\) を積の和で表すことができる。ただし、すべての \(C\) の表現がそのように得られるわけではない。
演習 2. \(M_{2}\) 上のベクトルノルム \(G(\cdot)\) と、2次の冪零 Jordan ブロック \(J_{2}(0)\) を考える。もし \(G(\cdot)\) が \(C_{2}\) 上のあるノルムと互換であるならば、次が成り立つ理由を説明せよ:
\|e_{1}\| = \|J_{2}(0)e_{2}\| \leq G(J_{2}(0))\|e_{2}\|, \quad \|e_{2}\| = \|J_{2}(0)^{T}e_{1}\| \leq G(J_{2}(0)^{T})\|e_{1}\|
これにより、\(\|e_{1}\| \leq G(J_{2}(0))G(J_{2}(0)^{T})\|e_{1}\|\) が従う。したがって、次の不等式は必要条件である:
G(J_{2}(0)) \, G(J_{2}(0)^{T}) \geq 1
このことから、(5.7.5) で定義されるノルム \(G_{c}(\cdot)\) は \(C_{2}\) 上のどのノルムとも互換でないことがわかる。
演習 3. (5.7.5) で定義されるノルム \(G_{c}(\cdot)\) は、\(C_{2}\) 上のいかなるノルムとも互換ではないが、それでもスペクトル的に優越であることを示せ。(5.7.17) と照らして議論せよ。ヒント:(1.2.4b) を用いて次を示せ:
\rho\!\left(\begin{bmatrix} a & c \\ b & d \end{bmatrix}\right) \leq \tfrac{1}{2}\bigl(|a-d| + \sqrt{|a+d|^{2}+4|bc|}\bigr) \leq G_{c}\!\left(\begin{bmatrix} a & c \\ b & d \end{bmatrix}\right)
これまでに、\(M_{n}\) 上のいくつかのベクトルノルムは \(C_{n}\) 上のノルムと互換であり、いくつかはそうでないことを見てきた。互換であるものはスペクトル的に優越であり、互換でないものはスペクトル的に優越である場合とそうでない場合がある。\(M_{n}\) 上のベクトルノルムが \(C_{n}\) 上のあるノルムと互換であるための必要十分条件を我々は持っており、また任意の \(C_{n}\) 上のノルムは、それが誘導する \(M_{n}\) 上の劣乗法的ノルムと互換であることも分かっている。では、ある \(C_{n}\) 上のノルムが、劣乗法的でない \(M_{n}\) 上のノルムと互換であるのはいつか? 答えは「常に」である。
行列解析の総本山

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