[行列解析4.6.10]定理

4.6.10

定理 4.6.11. \(A \in M_n\) が与えられたとする。このとき、\(A\) が円対角化可能であるための必要十分条件は、(1) \(A \overline{A}\) が相似変換により対角化可能であり、(2) \(A \overline{A}\) のすべての固有値が実数かつ非負であり、(3) \(\mathrm{rank}\,A = \mathrm{rank}\,(A\overline{A})\) が成り立つことである。

証明. もし \(A = S D \overline{S}^{-1}\) で \(D \in M_n\) が対角行列ならば、

A \overline{A} = S D \overline{S}^{-1} \overline{S} \overline{D} S^{-1} 
= S D \overline{D} S^{-1}

となり、\(A\) と \(A\overline{A}\) の階数は、\(D\) の非零の対角成分の個数に等しい。

逆に、\(\mathrm{rank}\,A = \mathrm{rank}\,(A\overline{A})\) が成り立ち、かつ正則行列 \(S\) が存在して

A \overline{A} = S \Lambda S^{-1}

と表せるとする。ここで \(\Lambda = \lambda_1 I_{n_1} \oplus \cdots \oplus \lambda_d I_{n_d}\) は実対角行列であり、

0 \leq \lambda_1 \lt \cdots \lt \lambda_d

が成り立つと仮定する。このとき

S^{-1} A A \overline{S} 
= (S^{-1} \overline{A} S)(S^{-1} \overline{A} S) 
= \Lambda

と計算できる。ここで \(B = S^{-1} \overline{A} S\) とおくと、\(B \overline{B} = \Lambda = \overline{\Lambda} = \overline{B} B\) となるので、\(B\) と \(\overline{B}\) は可換である。また、\(B \Lambda = \Lambda B\) となるので、(2.4.4.2) により \(B\) は \(\Lambda\) に適合するブロック対角行列に分解される。

各ブロックについて \(B_{ii}\overline{B_{ii}} = \lambda_i I_{n_i}\) が成り立つ。ここで \(\sigma_i \geq 0\) を \(\sigma_i^2 = \lambda_i\) と定める。もし \(\lambda_i > 0\) なら、補題 4.6.9 により、正則行列 \(R_i \in M_{n_i}\) が存在して

B_{ii} = \sigma_i R_i \overline{R_i}^{-1}

と表せる。一方、階数の比較により \(B_{11} = 0\) (もし \(\lambda_1 = 0\) の場合)または \(B_{11} = \sigma_1 I_{n_1}\) (もし \(\lambda_1 > 0\) の場合)が成り立つ。したがって、一般に

B = R \Sigma \overline{R}^{-1}

と表せる。ただし \(R = R_1 \oplus \cdots \oplus R_d\)、\(\Sigma = \sigma_1 I_{n_1} \oplus \cdots \oplus \sigma_d I_{n_d}\) である。したがって

A = S B \overline{S}^{-1} = (S R) \Sigma (S R)^{-1}

となり、\(A\) は円対角化可能である。■

(4.6.P26 および P27) では、この補題と定理のユニタリ合同に関する類似版が述べられている。

通常の相似変換の理論は、異なる基底に関して表された線形変換の研究から生じる。一般の場合において、共役相似(consimilarity)は、異なる基底に関して表された反線形変換の研究から現れる。半線形変換(ときに反線形変換と呼ばれる)は、複素ベクトル空間 \(V \to W\) の写像 \(T: V \to W\) であって、加法性(すべての \(x,y \in V\) に対して \(T(x+y) = T(x) + T(y)\))と、共役斉次性(すべての \(a \in \mathbb{C}, x \in V\) に対して \(T(ax) = \overline{a}T(x)\)、ときに反斉次性と呼ばれる)を満たすものである。量子力学における時間反転は、その典型的な例である。

もちろん、すべての行列が円対角化可能であるわけではない。しかし、任意の複素正方行列は共役相似によって標準形に変形できる。その標準形を与えるのが、共役相似標準形の定理である。


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