0.7.3 分割行列の逆行列
可逆な分割行列 A の逆行列において、対応するブロックを同様に分割形式で表現することが有用な場合がある。
これは、A \(\in M_n(F)\) およびその逆行列 \(A^{-1}\) の特定の部分行列が可逆であることを前提としたうえで、様々な同値な形式で表現できる。単純化のため、A を \(2 \times 2\) ブロック行列として次のように分割する:
A = \begin{bmatrix} A_{11} & A_{12} \\ A_{21} & A_{22} \end{bmatrix}
ここで \(A_{ii} \in M_{n_i}(F), i = 1, 2\)、かつ \(n_1 + n_2 = n\) である。
対応する分割形式での \(A^{-1}\) の表現の一例を次に示す(必要な逆行列の存在を仮定):
(0.7.3.1)
A^{-1}=\begin{bmatrix}
(A_{11} - A_{12} A_{22}^{-1} A_{21})^{-1} & A_{11}^{-1} A_{12} ( A_{21} A_{11}^{-1} A_{12}-A_{22} )^{-1} \\
A_{22}^{-1} A_{21}(A_{12} A_{22}^{-1} A_{21}-A_{11})^{-1}
& (A_{22} - A_{21} A_{11}^{-1} A_{12})^{-1}
\end{bmatrix}この式は、A との分割行列の積を計算し簡約することで検証できる。
検証内容はこちら
一般的な添字集合を用いると、以下のように書ける:
A^{-1}[\alpha] = \left( A[\alpha] - A[\alpha, \alpha^c] A[\alpha^c]^{-1} A[\alpha^c, \alpha] \right)^{-1}
また、
\begin{aligned}
&A^{-1}[\alpha, \alpha^c] \\
&= A[\alpha]^{-1} A[\alpha,\alpha^c] (A[\alpha^c,\alpha] A[\alpha]^{-1} A[\alpha,\alpha^c]-A[\alpha^c])^{-1}\\
&= (A[\alpha^c,\alpha] -A[\alpha^c]A[\alpha,\alpha^c]^{-1}A[\alpha])^{-1}\\
&= \left( A[\alpha, \alpha^c]^{-1} A[\alpha^c]^{-1} A[\alpha^c, \alpha] - A[\alpha] \right)^{-1} A[\alpha, \alpha^c] A[\alpha^c]^{-1}
\end{aligned}これらの表現は Schur 補行列と密接に関連している(0.8.5節 参照)。
なお、\(A^{-1}[\alpha]\) は \(A^{-1}\) の部分行列であり、\(A[\alpha]^{-1}\) は \(A\) の部分行列の逆行列であるため、一般には一致しない。
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