[行列解析8.3.5]定理:正の左固有ベクトルをもつ非負行列の性質

8.3.5 定理:正の左固有ベクトルをもつ非負行列の性質

\( A \in M_n \) を非負行列とし、正の左固有ベクトルをもつと仮定する。

  • (a) \( x \in \mathbb{R}^n \) が零でないベクトルであり、かつ \( A x \geq \rho(A) x \) を満たすならば、\( x \) は固有値 \( \rho(A) \) に対応する \( A \) の固有ベクトルである。
  • (b) \( A \neq 0 \) であれば、\( \rho(A) \gt 0 \) であり、かつ \( | \lambda | = \rho(A) \) を満たす任意の固有値 \( \lambda \) は半単純(semisimple)である。すなわち、最大絶対値の固有値に対応するジョルダンブロックはすべて 1×1 である。

証明

\( y \) を \( A \) の正の左固有ベクトルとする。前の定理より、

A^{T} y = \rho(A) y

(a) \( x \neq 0 \) かつ \( A x - \rho(A) x \geq 0 \) であることがわかっている。これが実際に 0 であること、すなわち \( A x - \rho(A) x = 0 \) を示す必要がある。 もし \( A x - \rho(A) x \neq 0 \) であれば、

y^{T} (A x - \rho(A) x) > 0

である。しかし、

y^{T} (A x - \rho(A) x)
= y^{T} A x - \rho(A) y^{T} x
= \rho(A) y^{T} x - \rho(A) y^{T} x = 0

となり、矛盾する。したがって \( A x - \rho(A) x = 0 \) が成り立ち、\( x \) は \( \rho(A) \) に対応する固有ベクトルである。

(b) \( y \) が正であり、\( A \) が非零かつ非負であるので、\( y^{T}A \) の少なくとも1つの成分は正である。したがって、

y^{T} A = \rho(A) y^{T}

より、\(\rho(A) \gt 0\) が従う。次に、

D = \operatorname{diag}(y_1, \ldots, y_n), 
\quad B = \rho(A)^{-1} D A D^{-1}

と定義する。単位円上の固有値がすべて半単純であることを示せば十分である。 次を計算すると、

e^{T} B 
= \rho(A)^{-1} e^{T} D A D^{-1} 
= \rho(A)^{-1} y^{T} A D^{-1} 
= \rho(A)^{-1} \rho(A) y^{T} D^{-1} 
= e^{T}

となる。前の演習より、非負行列 \( B \) の各列和は 1 に等しい。したがって \( B \) はべき有界であり、主張は (3.2.5.2) から従う。

演習

  • (1) \( A \) が固有値 \( \rho(A) \) に対応する正の右固有ベクトルをもつと仮定した場合に、上の定理を再定式化し、証明せよ。
  • (2) 上の定理において、\( A \) が非負であるという仮定を省くことができないことを示す例を挙げよ。
    ヒント:
    \( A = \begin{bmatrix} 1 & -1 \\ 2 & -2 \end{bmatrix}, \quad x = e \)

非負行列 \( A \in M_n \) に対して、その固有値 \( \rho(A) \) は ペロン根(Perron root) と呼ばれる。 ただし、非負行列においてペロン根に対応する固有ベクトルは一意に定まらない場合があるため、「ペロンベクトル」という概念は一意には定義されない。 たとえば、非負行列 \( A = I \) に対しては、任意の非零非負ベクトルが固有値 \( \rho(A) = 1 \) に対応する固有ベクトルとなる。


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