7.5.4 定理(ムタールの定理)
行列 \( A = [a_{ij}] \in M_n \) について、次が成り立つ。
\( A \) が半正定値であることと、すべての半正定値行列 \( B = [b_{ij}] \in M_n \) に対して
\mathrm{tr}(A B^{T}) = \sum_{i,j=1}^{n} a_{ij} b_{ij} \ge 0
が成り立つことは同値である。
証明: まず、\( A \) および \( B \) が半正定値であると仮定する。\( e \in \mathbb{C}^n \) を全成分が1のベクトルとする。このとき、\(\mathrm{diag}(e) = I\) であり、
\mathrm{tr}(A B^{T}) = \mathrm{tr}\!\big((\mathrm{diag}\,e)\,A\,(\mathrm{diag}\,e)\,B^{T}\big)
= e^{*}(A \circ B)e
が成り立つ。\( A \circ B \) は半正定値であるから、その二次形式 \( e^{*}(A \circ B)e \) は非負である。
逆に、任意の半正定値行列 \( B \) に対して \(\mathrm{tr}(A B^{T}) \ge 0\) が成り立つと仮定する。\( x = [x_i] \in \mathbb{C}^n \) とし、\( B = \bar{x}x^{T} \) とおく。このとき、
\mathrm{tr}(A B^{T}) = \sum_{i,j=1}^{n} a_{ij}\,\bar{x}_i\,x_j = x^{*}A x \ge 0
したがって、すべての \( x \in \mathbb{C}^n \) に対して \( x^{*}A x \ge 0 \) が成り立つ。ゆえに \( A \) は半正定値である。
行列解析の総本山

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